2019年8月22日

テクノロジー

“ユーザーインタビューをはじめよう” 「発見」と「学び」を強化する手法

N.Ohnaga

新規事業担当者のためのインタビューシリーズも今回の第3回で最終回です。第1回では初めてインタビューに取り組む人のための心得について。第2回では、ゼロから新規事業を検討する際に求められるインタビューの3つの型とインタビューを設計する方法について書きました。最終回の今回は、インタビューと組み合わせることでより「発見」と「学び」を強化するための手法についてご紹介いたします。
 

 
新規事業開発(0→1)のステップを大きく4つに分類すると、3つのインタビューのタイプ(機会探索/タスク分析/仮説検証)は上図のとおり使い分けられます。

・「誰のどんな問題を解決すべきかを定義する」機会探索のインタビュー
・「特定した機会に対して顧客体験を深堀りする」タスク分析のインタビュー
・「考案したソリューションのコンセプトを顧客に問う」仮説検証インタビュー

それでは各段階にあわせて発見と学びを強化する手法をみていきましょう。

 
 
 

<機会探索段階で活用する手法>

・エスノグラフィー

 

 
エスノグラフィーは課題に共感形成において最もダイレクトな手段です。チームメンバー自らが顧客の環境に浸り、自身の五感を使って内側から深く問題を捉え直すことで、隠れたニーズを探り、課題解決の機会を探索します。たとえば、介護が対象となるサービスであれば、たとえ3日間でも施設スタッフとして滞在することで、介護者、被介護者双方の視点で今、本当に解決が必要な支援は何か?なぜ、これまでその問題が解決されなかったのか?を深く知ることができます。(例えば、排泄予測デバイスのDfreeは開発の初期段階で施設で滞在し、排泄とその周辺での人々の行動について観察しながら、プロダクトの方向性を定めています)
更に、観察のフレームワーク「AIUEO」の視点に沿って情報を整理・解釈することでより問題の全体像やつながりを深く理解できるようになります。
 
「AIUEO」
Activity:ヒトやモノの動き、流れに注目
Interaction:ヒト同士やモノとヒトの交流
User:利用者の属性、タイプ
Environment:環境、空間、施設、雰囲気、自然要素、時間
Object:機械、小物、所持品、独特なモノ、無いもの
 
エスノグラフィーがわかりやすく紹介された記事
https://bizzine.jp/article/detail/28

 
 
 

<タスク分析段階で活用する手法>

・コンテクスチュアル・インクワイアリー

 

 
コンテキスチュアル・インクワイアリー(Contextual Inquiry/文脈質問法)とは、製品がどのような文脈、背景で使用されるかを明らかにするためのリサーチ手法です。インタビューアーは実際にユーザーが製品を使う場所におもむき、ユーザーが製品を使う様子を観察します。このとき、ユーザーは製品を使いながら説明をし、インタビューアーは不明な点について質問をします。ITシステムがテーマであればそれが使われる環境で、料理がテーマであれば顧客のキッチンに入り、調理を見ながら質問を繰り返します。カスタマーの無意識の行動の背景にある考えや、期待、不安、行動、そしてそれらを促進、阻害している要素を明らかにすることでテーマに関する未充足のニーズ・ウオンツに迫っていきます。
 
コンテクスチュアル・インクワイアリーがわかりやすく紹介された記事
https://webtan.impress.co.jp/e/2014/03/19/16931
 
 
 

<仮説検証段階で活用するインタビュー手法>

・カードソーティング

 

 
カードソーティングはあらかじめ用意した複数のコンセプトや製品の属性を並び替えによって分類したり、順位をつけたりしてもらい、出来上がった分類をベースに質問を重ねていきます。この手法の最大のメリットは、実際に物を作る前であっても、ユーザの認知や受容性の確認ができることです。 カードという刺激物を与えて、それに対してユーザがどのように判断するかを見ることできるため、単に「どんなものがあればいいと思いますか?」、「○○という機能があればが使ってみたいですか」といったインタビューよりもはるかに意味のある検証が可能です。
また、インタビューアーが同席しているため、仕分け結果の理由をすぐに尋ねることができるのもメリットです。具体的にどのようなものを期待したのか?、カスタマーの好き嫌いを分けている価値軸は何か?、その場で疑問を解消し深掘りすることができます。
 
 
 

最後に

ゼロから1をつくる事業創出のフェーズにおいて、カスタマーの抱える課題に精通することは新規事業担当者にとって必須のスキルになっています。しかし、一見して、インタビューを人に話をするという日常的な行為と同じように捉えてしまうとなかなかうまくいきません。優れたインタビューアーは自然ば話ぶりで対象者とやりとりしながら、何をいつどんな風に聞くべきか、何も言わないほうがいいタイミングはいつか?という細かい選択を意識的におこなっています。そしてこのスキルを身につけるにはインタビューに関する方法論の学習と実践による経験値が欠かせません。

アイスリーデザインでは、インタビューの設計、実施、分析をクライアント担当者に伴走しながらスキルの習得をサポートしています。自社のUXデザイン力を高めたい、ユーザー調査を内製化したいとお考えの方がいらっしゃいましたら、お気軽にご相談ください。
 
第1回記事 https://www.i3design.jp/in-pocket/7769
第2回記事 https://www.i3design.jp/in-pocket/7814
 
 

参考

ユーザーインタビューをはじめよう ―UXリサーチのための、「聞くこと」入門
https://www.amazon.co.jp/dp/4802510586/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_U_loMYCbVC81MYH
 
 

Nobuyuki Ohnaga

N.Ohnaga

株式会社アイスリーデザイン取締役、株式会社bridge代表、サービスデザイナー。日本にペルソナを導入した先駆的企業であるmct社のコンサルタントとして人間中心イノベーション手法を活用した商品開発、サービスコンセプトの構築、イノベーション人材育成といったプロジェクトをリード。2017年1月bridge.Incを設立。多様な業種、組織の200を超えるデザインプロジェクトの実践経験をノウハウとして体系化し、スタートアップや中小企業のイノベーションを支援する。2017年8月より株式会社アイスリーデザインに役員として参画。

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