2018年4月13日 UXデザイン,ビジネス

ビジネスにおける『冷静と情熱のあいだ』 – ロジカルシンキングとデザインシンキングについて

『冷静と情熱のあいだ』という2001年に公開された辻仁成原作の映画をご存じですか?絵画の修復師をめざす順生と、香港からの留学生で大学生時代の彼女あおいとの、学生時代から大人になるまでの恋愛小説です。この小説のファンの方には怒られそうですが、簡単に言うと、情熱を忘れかけた二人が昔の情熱を思い出していくというストーリーです。今回のテーマは、この映画のタイトルに文字って、ロジカルシンキングとデザインシンキングのあいだ、ということでいきたいと思います。ビジネスパーソンは、この2つのシンキングとどう付き合わなければならないのでしょうか。
 

ロジカルシンキングとは何か?

ちょっと前までのビジネスパーソンには、抽象的で複雑な課題を解決する重要スキルとして「ロジカルシンキング」が求められていました。そのため、皆こぞってMBA留学したり、本を読んだりしてロジカルシンキングを学びました。会社内でも、やれMECE(ミーシー)だなんだと論理フレームワークを勉強させられたものです。このフレームワークや論理的なアプローチは、もちろん今も大事ではあります。一方でデジタルトランスフォーメーションが進む今日においては、ロジカルシンキングだけではなく、イノベーションを起こす「デザインシンキング」が重要だと言われるようになってきました。しかし、これまでロジカルシンキングに長く浸ってきた人にとって、いきなり「デザインシンキングだ!」と言われても、さっぱり分からないのが実情ではないでしょうか。
 
 

ロジカルシンキングはイノベーションを起こさないのか?

ここに一つ、テーゼを出します。イノベーションのためにデザインシンキングが必要なのであれば、逆説的に「ロジカルシンキングではイノベーションが起きないのか?」。結論を先にお伝えすると、答えは「否」となると私は考えています。
 
ロジカルシンキングの本質的な価値は、抽象的な課題ならびに複雑性の高い事象について、論理的な明快さと説明可能性をもって結論を導き出すことです。つまりロジカルシンキングとはある事象に対して、結果・結論を見出すためのアプローチになります。そのため、論理的な整合性があり、再現性があることが重要です。つまり、誰がたどっても同じ結論にいたることが大事なのです。
 
この時にイノベーションもしくは発見は無いのか?というと、実はあるのです。抽象的もしくは複雑な課題や事象に対して、論理フレームワークを見出す瞬間にイノベーションが存在します。これは論理学のテーゼにも関係しますが、認識の最初の始まりは、対象の「否定」によって始まります。簡単にいうと男性は女性ではない、神は存在しない、というように、何かの存在を否定することによって、「◯◯ではない何か」というその存在は顕在化されます。どこにラインを引くかによって、その存在のあり方は大きく異なります。このライン引きの瞬間が論理フレームワークを見出す時なのです。
 

 
ロジカルシンキングは、抽象的な課題や複雑な事象に対して、「◯◯は▲▲でない」と整理することによって問題の構造を明らかにします。その時引くラインは、必ずしも論理的な整合性のもとに引かれるものではありません。論理的にはジャンプした瞬間にこそ生みだされます。この論理的ジャンプ、言い換えると「発見」というものが、従来はコンサルタントの力、そしてセンスとして求められるところでした。この発見のスキルとセンスが、新規事業におけるコンサルの価値の源泉でもありました。これが「ロジカルシンキングではイノベーションが起きないのか?」のテーゼに対する否という回答の証左になります。
 
ただ、ここで重要なことは、ロジカルシンキングに求められるスキルは、発見そのものではない点です。ロジカルシンキングの目的は、先にも説明したように、論理的な明快さと説明可能性をもって結論を導き出すことです。再現可能性を担保することに比重があり、もともとイノベーションを産むことを目的としたフレームワークではないのです。
 
 

そもそもイノベーションとは何か?

次に改めてイノベーションとは何かについてブレークダウンしてみましょう。極論すれば、誰も発想をしなかったアイデアを考えることではありません。多くの場合には、アップルのジョブスがそうであったように、何かを再発見すること、もしくは別の意味をもたせることで再発見することによって、ユーザー体験に変革をもたらして快感を与えることがイノベーションと呼ばれています。この再発見という瞬間の行為自体は、ロジカルシンキングでの発見の行為と変わりません。しかし、ロジカルシンキングはiPhoneが誕生した結果を説明することには長けていますが、iPhoneを誕生させる行為そのものを目的にしたものではありません。
 

デザインシンキングは何が違うのか?

一方、「デザインシンキング」は、ロジカルシンキングの結論や結果を見出すことではなく、イノベーションに至るまでのプロセスそのものを重視し目的としています。しかしこれは同時に、「デザインシンキングだとイノベーションを起こすことができる」という勘違いのポイントでもあるのです。
 
同じ「シンキング」という語彙がついていても、『冷静と情熱のあいだ』の映画に例えるのであれば恋愛という過程を享受するのか(デザインシンキング)、恋愛によって人生においてもたらされる結果(ロジカルシンキング)を重視するのか、と求める中身が全くことなります。
 

 
デザインシンキングではプロセスを定義しています。シンプルに言うと、発見があって、それを形にしてテストする、と言えるでしょう。そしてこれを繰り返して、より精度の高いものにするのが「デザインシンキング」です。

  • ユーザー体験に注目する
  • 曇ったメガネを外して純粋な気持ちで感動する
  • 小さなことからでも形にしていく
  • テストする

そして、この試行錯誤の工程においてもう一つ大事なエッセンスがあります。「情熱」をもつことです。デザインシンキングでは、この「情熱」をもってイノベーションを実現しようとするプロセスが大事なのであって、目的は時として、ビジネスの結果ですらありません。この「情熱」は、ロジカルシンキングに浸り、限られた時間とリソースで結論をださなければならないビジネスパーソンで結論は何なんだ?という「冷静」との大きな溝となりがちです。
 

ロジカルシンキングとデザインシンキングのあいだ

実際のところ、デザインシンキングの手法を大企業にインストールするには、多くの場合において非常に困難を伴います。何故かというと、成果を重んじる大企業において、より正確にいえば資本の論理の世界においては、論理的な整合性と結果を重視してきたため、「情熱」の部分を受け入れがたいカルチャーとなってしまっているからです。
 
デザインシンキングで出てきたアイデアやアプローチは、市場性が高い場合には時として非常にインパクトのあるビジネスになります。しかし市場性が低い場合には、取るに足らないビジネスになるかもしれません。
 

デザインシンキングをインストールするためには?

ロジカルシンキングに浸った企業がデザインシンキングをインストールするには、大きく分けて2つのようなアプローチが考えられます。
 
一つは、プロジェクト単位でデザインシンキングで生まれたアイデアを論理的に精査するアプローチです。複数のチームによるスプリント方式でいくものアイデアを創出し、そこから実現性と市場性が高いものをロジカルシンキングのフレームワークで抽出する形式をとるものです。
 
当社は韓国の会社と事業提携していますが、サムスンやLGといったグローバル企業は、既にこの手法を採用しているのではないかと考えられます。例えば、彼らは、あるIot関連のプロジェクトのビジネスを展開するにあたって複数のデザイン会社に発注し、デザイン案を出させています。各デザイン会社では独自にスプリントを実施したアイデアが複数提出され、その中から市場性、実現可能性、競合性を加味した上で、文字通りロジカルシンキングで選択したアイデアを実行しようとしています。
 
もう一つは、アップルやXiaomiのようにデザイン組織に真剣に取り組むという形です。こちらを行うにはトップによる強力な決意と実行力が求められます。
 
いきなりが難しい場合には、セブンイレブンなどが行うプライベートブランド商品のように、まずは外部に依頼して実践してみる、という方法をおすすめします。
 

 
ロジカルシンキングで外部のコンサルに依頼してプロジェクトを経験させることによって社員を育成するということは度々行われてきましたが、デザインシンキングでも同様に外部に依頼することができます。プロジェクトの対象はさまざまだとは思いますが、社員をプロジェクトにアサインすることによって、デザインシンキングのプロセスを経験させることができます。これは、企業内にイノベーションのカルチャーを育成する上では重要な資産(アセット)にもなりえるのです。
 
企業を主語にした場合には、対象とするプロジェクトは事業ポートフォリオの一つとして位置づけてもいいかもしれません。つまり予期ができないという意味で「リスク性が高い事業ではあるが、もしかして大きなリターンが見込める」として、トライ・アンド・エラーを繰り返させるという事業という位置づけにするという考え方です。
 
 

最後に

故スティーブ・ジョブスは以下のように述べています。
 
「(多くの経営者は)アイデアを出せば、作業の9割は完成だと考える。そして、考えを伝えさえすれば、社員が具現化していると思い込むんだ。」「しかし、凄いアイデアから優れた製品を生み出すには、大変な職人技の積み重ねが必要だ。それに、製品に発展させる中でアイデアは変容し、成長する。細部を詰める過程で多くを学ぶし、妥協も必要になってくるからね。」
 

 
若い時の情熱のある恋愛は、いつしか大人になって冷静な計算に負けてしまうかもしれません。しかし、どんなに冷静であっても、困難があったとしても、情熱があってこそデザインシンキングのプロセスは活きてきます。ロジカルシンキングとデザインシンキングのあいだ、「情熱」というエスプリがこれからのビジネスパーソンの重要なエッセンスかもしれません。
 
当社、i3DESIGNでは様々なクライアントのために、デザインシンキングのコンサルティングサービスやユーザー調査を実施しています。興味のある方は是非お問い合わせください。
 
関連投稿 https://www.i3design.jp/in-pocket/6330
 
 
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ビジネスの創出に必要な”右脳”であるUX/UI分野と”左脳”の開発分野が融合した組織で、サービスデザイン・UI制作・プロジェクト管理・設計・開発・品質管理・システム運用を一貫してご提供できることが、i3DESIGNの強みです。

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Yoichiro Shiba

ファウンダー兼CEO

大手シンクタンクにて金融機関むけのシステムコンサルティング業務に従事後、ソフトバンクにて海外ベンチャーキャピタルとの折衝、投資案件のデューデリを担当。当時ソフトバンクグループ会社内の最年少役員。その後、一部上場企業を対象に投資事業ポートフォリオ再編、バイアウトのアドバイザリー業務を提供、複数のIT企業の役員歴任。ロータリー財団の奨学生としてドイツBielefeld大学にて社会哲学を専攻。

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