2019年3月15日 ビジネス

マルチハビテーション(多拠点生活)の時代

ひとつの場所に住むのではなく、複数の場所に住むマルチハビテーション(多拠点生活)が現実化しています。先日、発表された「ADDress」というサービスは、月に4万円の費用で全国11拠点に住み放題になるというサービスで話題になっています。空き家や別荘などを活用することで低コスト化を実現したことで多くの人にとって、ぐっと現実的な生活スタイルになりました。

これまでもマルチハビテーションの考え方はありました。しかし、これまでのマルチハビテーションは平日を都内で過ごし、週末を軽井沢の別荘でのような富裕層のライフスタイルとして捉えられることが多かったです。複数の拠点を所有や借りて、移動コストも払える人だけの特権的な世界でもあったのです。

しかし、テクノロジーの発達が様々な社会の活用されていない空リソースを活用したシェアリングエコノミーを実現し、いつでもどこでも働くことのできるリモートワークを実現したことで、普通の人達がマルチハビテーションを楽しむことを可能にしつつあります。

現在、地方創生が叫ばれる中で移住者を増やそうという考えがありますが、個人的には、なかなか移住はハードルが高いと思います。自分の仲間のコミュニティの存在と幸福度とは大きな相関があると言われています。どんなに自然豊かで気持ちのよい場所でも自分のこれまでのコミュニティを切り離してまで移住しようという人は少ないでしょう。しかし、複数拠点であれば、自分のこれまでの場所のコミュニティは維持しつつ、新しい世界への挑戦も可能になります。

例えば、昔からの場所に1/3、時々訪れ多少知り合いがいる馴染みの場所に1/3、まったく未知の場所に1/3のような生活を実現することができるようになるため、ある意味人生をより豊かに重層的に楽しめるようになると言えるかも知れません。

住む場所は低コストになったとします。そこで、もう一つの鍵となるのが、移動コストです。やはり、移動についてもライドシェアのようにシェアリングエコノミーによる低コスト化も一段と必要でしょう。遠隔地であれば、エアラインのコストがネックになります。実際、私の知り合いで平日は都内、週末は八丈島という社長さんがいますが、八丈島の居住コストが安くなったとしても、まだまだANAの運賃は高いです。

例えば、MaaSのような考え方で定額を支払う中で、月に2回飛行機に乗れるようなサービスが生まれるとぐっと移動もしやすくなります。実際、ANAは今回のADDressとも提携して、多拠点生活者を支える仕組みを模索しています。高齢化やVRなどの普及で従来型の移動が減る可能性もある中で多拠点生活者の増加は新しい需要創出につながることになるのです。移動コストが劇的に変われば、グローバルに国境を越えた多拠点生活もどんどん増加するでしょう。そうなると、税金も自分の居た時間に応じて分配するようなことが当たり前になるかもしれません。まさに、ふるさと納税が本当にマルチ住民税に変わることになるかもしれません。

多拠点で生活できるようになると、仕事も複数の仕事をこなすことが増えるでしょう。オンラインでプログラム開発しながら、農業したり、地域の老舗企業のマーケティングするなど多様な働き方も促進されます。家族も色々なところにコミュニティのような形で存在するようになるかもしれません。土地や会社や血縁にしばられるようなこれまでの生き方から解き放たれた新しい生き方の第一歩が、このマルチハビテーションのライフスタイルなのかもしれません。

Kentaro Fujimoto

D4DR 代表取締役社長

1991年電気通信大学を卒業。野村総合研究所在職中の1994年からインターネットビジネスのコンサルティングをスタート。日本発のeビジネス共同実験サイトサイバービジネスパークを立ち上げる。 2002年よりコンサルティング会社D4DRの代表に就任。広くITによるイノベーション,事業戦略再構築,マーケティング戦略などの分野で調査研究,コンサルティングを展開しており,様々なスタートアップベンチャーの経営にも参画し,イノベーションの実践を推進している。現在、日経MJでコラム「奔流eビジネス」,日経BIzgateで「CMO戦略企画室」を連載中。

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