2020年12月21日

UI/UXデザイン

フェーズフリーというUX

D4DR 代表取締役社長

フェーズフリーという言葉をご存じでしょうか?平常時と非常時というフェーズを取り払い,日常時から使える商品やサービスをそのまま非常時でも使えるようにするという考え方です。例えば麺やお米のインスタント食品であれば平常時は電子レンジで温めたり,お湯を入れて美味しく味わうことができますが,非常時のお湯が無い時でも水を入れることで少し時間をかければ食べられるようにしたり,常温でもそのまま食べられるように作ることで非常食として使うこともできます。最近では公園のベンチも平常時はベンチですが非常時にはそのまま椅子の部分を動かすとかまどになって煮炊きができるように設計されているものが増えました。公園が避難場所になった時に調理ができるようにです。電気自動車も災害時にはそのまま強力な蓄電池として使えるので,停電の時に電源供給できることをメリットとして購入する人も増えています。こうした商品やサービスがフェーズフリー対応として注目されています。

これまで災害など緊急事態は特別なことなので,そうした災害用品も特別な商品でした。しかし,特別な非日常であるために,日常使っていないことで,どこにあるかわからないとか使い方がわからないなどの問題が生まれます。例えば今あなたの隣の人が急にここで心臓麻痺で倒れてAEDが必要になったとして、すぐに一番近くのAEDがどこにあるか探すことができますか?日常生活で利用していないものが急に必要になってもそもそもどこにあるかわからないのでは意味がありません。そのためAEDは目立つオレンジの箱とかに入っていることが多いです。そして使い方がわからない人のためにスイッチを入れると自動で音声案内が再生されて指示通り動かせば大丈夫なように工夫されています。それでもなかなか倒れた人を見つけてすぐにAEDを探しに行くことは大変です。

先日AppleWatchをしていた私の友人が酔っ払って急に転びました。即座にその加速度を検知したAppleWatchがアラートを発していました。実はAppleWatchには転倒を検知して通知する機能があります。自分ですぐに対応できないと大きな音で周囲の人にアラートを伝えることや,緊急通報サービスに自動で連絡してくれる機能などがあります。心臓に疾患のある人などAEDが必要になる可能性のある人の場合は転倒後すぐに近くのAEDに自動で通知が行ってAED側から転倒者のところまで持って行くように音声を発したり,スマホの地図と連動して誘導したりできるような機能を作ればもっと利便性が高まります。

このように我々が日常使っているICTはフェーズフリーを大幅に高める可能性をたくさん秘めています。実際停電になった時にどこにしまったかわからない懐中電灯を探すよりも,まずは手元のスマホのライトを懐中電灯代わりに使う人が今は圧倒的に多いでしょう。恐らく大体数の人はスマホのライトを使って大きな懐中電灯を探すことになるのだと思います。このように普段使っているデバイスなどをベースに周囲のデバイスと連動してフェーズフリーを実現するUI/UXを意識していくことはこれから様々なサービスを設計する人においては重要になるでしょう。シェアリングエコノミーのサービスなども空いている部屋を仮設の避難所にできたり,車を共同で利用したり,足りない生活用品をシェアしたりなど非常時には多くの人が使えるようになることで助かるサービスにする転換できるものがたくさんあるでしょう。またキャッシュレスが広がったことでお金が無い人が一時的に様々なものを無料や援助で買い物できるようなサービスも組み立てやすくなったでしょう。食糧の配給などで管理しながら配ることができるようになるはずです。今はコロナでやや非常時ではあります。だからこそICTの力を活用した新しいフェーズフリーの設計をこういう時にこそ考えて行きたいところです。

 

Kentaro Fujimoto

D4DR 代表取締役社長

1991年電気通信大学を卒業。野村総合研究所在職中の1994年からインターネットビジネスのコンサルティングをスタート。日本発のeビジネス共同実験サイトサイバービジネスパークを立ち上げる。 2002年よりコンサルティング会社D4DRの代表に就任。広くITによるイノベーション,事業戦略再構築,マーケティング戦略などの分野で調査研究,コンサルティングを展開しており,様々なスタートアップベンチャーの経営にも参画し,イノベーションの実践を推進している。現在、日経MJでコラム「奔流eビジネス」,日経BIzgateで「CMO戦略企画室」を連載中。

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