2018年7月13日

テクノロジー

ロンドン地下鉄の路線図からデザインが学ぶこと - 位置情報を知る手法について

著者: Eugen E?anu
デザインと、デザインがビジネスに及ぼす影響について考察、執筆。デザイナー、Laroche.co創立者、Laroche.fm運営者。詳細はeugenesanu.com参照。

こちらは、UX Planetから許可をいただいて翻訳・掲載している記事・画像です。What London’s Underground Map Can Teach You About Design


私たちが自分を取り巻く世界の様子を理解し、特定の場所や国、都市の地理的位置を知ることを可能にした手法について
 
は長い年月をかけて、自分たちが暮らす世界を把握するためにデータを集め、そのすべてを1枚の紙に記してきました。その紙は地図と呼ばれています。文明の歴史とは、実は地図の歴史に他なりません。人は何千年にもわたって地図を作り続け、大小さまざまな地理的区画に関する有用な情報を蓄積してきたのです。多くの人々が複雑な情報を簡単な文法で表現することに情熱を燃やしてきました。しかし、誰もが知っているある地図は、実のところ地図であることを止めた時から有用になったのです。
 
ロンドン地下鉄の路線図が編纂されたのは1908年。この年、8つの鉄道路線が合併して1つの鉄道網になり、各路線がどこに行くのかを示す図を作成する必要が生じました。しかし、同年に作成された地図にはまだ改良の余地がありました。複雑すぎたのです。ご覧の通り、川や運河、森、公園などが描き込まれています。びっしりと駅名が描き込まれていて、図上に入りきらない駅まであり、煩雑な印象です。地図としての出来が悪いわけではありません。むしろ地理的には正確です。しかしながら一般的な利用客にとって便利とは言い難いものでした。
 

 
地図は主要な駅を網羅していますが、目的地にたどり着くためのルートがわかりません。駅名は小さな文字でびっしりと、しかも異なる角度で書き込まれており、文字の配置がねじれている箇所も多数見られます。だからといって、まったく用を成さないという物でもありません。しかし20年も経つ頃、意図する用途に特化した改訂版が作成されました。
 

ハリー・ベックはロンドン地下鉄に勤務する29歳の製図工でした。1920年代末にその職を失った後も、ロンドンの交通網に対する愛着は衰えませんでした。
 

 
ベックの思考の根底にあったのは、地下鉄に乗る人は地上の様子には関心がないという点でした。利用客の主要目的はA駅からB駅に行くことであり、知りたいことはただ2つ、即ち、「どこで乗るか」、「どこで降りるか」ということです。
 
したがって、重要なのは路線網の構造であり、地理的情報ではないのです。そこでベックは地下鉄の地図から「不要なものを削除する」ことに着手しました。様々な情報が詰め込まれていた地図を単純化したのです。ベックは当時を振り返って、「試しに路線を直線化して斜めに配置し、駅間の距離を均一にした」と語っています。路線の向きを水平、垂直、斜め45度の3種類に限定し、駅と駅の間隔を等しくして、各駅を路線と同じ色で彩色しました。
 
結果、その図は地図ではなく、一種の図形と呼ぶべき物になったのです。記号と色は、見る人を選ばず伝わります。ベックは1933年、友人に勧められて、どんな返事がきても構わないとの覚悟でこの図を地下鉄の運営会社に送りました。同社は彼のデザインを10ポンドで購入し、試験的に使ってみると回答しましたが、この金額は今日ではわずか600ポンドに過ぎません。ところが試作したポケットマップは好評で1,000部が売れ、75万部の増刷が決まったのです。こうして私たちが現在も使っているあの図が誕生しました。
 
ベックのデザインは、現在パリ、東京、モスクワといった世界中の大都市で使われている地下鉄地図の基礎となっています。いずれも複雑な地理的情報をシンプルな図形に落とし込んでいます。誰にもわかるシンボルを採用して、駅は丸、色分けした線で路線を表示しています。ハリー・ベックがユーザーインターフェースを知る由もありませんが、彼のデザインはそれを具現化したものと言えるでしょう。
 
ベックは現代のデザイナーが挑戦していることを、課題を細分化し、不要な部分を取り去ることで、彼の時代に成し遂げました。
 
ベックが用いた3つの原則は、現代のあらゆるデザインに応用可能なものでした。
 


 
対象
誰のためのデザインか。
 
明快さ
情報を伝えるための最も簡単な方法はどのようなものか。
 
あらゆる可能性を考慮する
あらゆる所にアイデアや解決策を得る機会がある。
 


 
物づくりをしている時も、新たな事業を画策している時も、偉大な着想はあらゆる所に潜んでいるということを、常に念頭に置く必要があります。職場に来る実習生、配偶者、子供たち、全く見知らぬ人からアイデアを得ることもあるのです。現在使っている地図を電気技師がデザインするなどと、いったい誰が考えたでしょうか。
 
あれから年月が経過し、地下鉄は新路線の敷設で拡張されました。路線図も当初より複雑になり、別のデザイナーがデザインし直すことになりました。ベックの同意を得ない新路線図はより複雑になりましたが、思ったほど有用ではありませんでした。そこでポール・ガーバットがベックのオリジナル版の原則、見た目、雰囲気を保った、より現代的な路線図を考案したのです。
 
改訂版の登場から既に長い年月が経過していますが、見た目と雰囲気は1933年当時から変わっていません。核となるのは明快さであり、永久に変わることはないでしょう。
 
優れたユーザーインターフェースの設計は、最新技術を必要とする仕事ではありません。しかし、仕事をこなしたり、必要な情報を入手し理解したりするため、可能な限りシンプルである必要があります。しかし現実は理想に届かず、「ヒューマンインターフェース」というより、「ソフトウェア」のように受け止められています。
 
 
本記事はTEDの動画でマイケル・ビアラット氏が語っている内容を元に構成したものです。
 
 
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