2025年にかけて、スマホは私たちの生活に欠かせないものになっています。
総務省が公表した「令和6年通信利用動向調査」によると、約9割の世帯がスマホを保有しており、個人の保有率も年々増加し、現在では8割を超えています。今やモバイルは人々の生活に不可欠な存在となっているのです。
それに伴い、企業にとってモバイルアプリは、お客さんとつながるための大切な場所になっています。
最近では、銀行が新しいサービスを提供したり、お店がネットと実店舗をつなぐ「オムニチャネル戦略」を進めたりする上で、アプリ開発のニーズが急激に高まっています。
しかし、これまでのアプリ開発では、AndroidとiPhoneの両方に対応するために、開発にかかる時間もお金も2倍かかってしまうという大きな悩みがありました。
そこで注目されているのが、クロスプラットフォーム開発という新しい手法です。
この記事では、特に人気の高い「Flutter(フラッター)」と「React Native(リアクトネイティブ)」という2つの開発方法について、その特徴や活用事例をわかりやすく解説します。
「どの技術を選べばいいかわからない」「もっと効率的にアプリを作りたい」と考えている経営者や開発担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
クロスプラットフォーム開発ってなに?
クロスプラットフォーム開発は、なぜ従来の開発の課題を解決できるのでしょうか?
ここでは、まず従来の開発方法と、クロスプラットフォーム開発のメリットを比較しながら見ていきましょう。

ネイティブ開発の課題
ネイティブ開発(これまでの開発手法)は、AndroidとiPhoneそれぞれに合わせた開発が必要でした。そのため、企業は以下のような課題を抱えていました。
- コストが倍増する:それぞれのOSに詳しい専門のエンジニアを、2人分確保する必要がある
- 期間が長くなる:機能の追加や修正を、両方のOSで別々に進めないといけない
- 品質の管理が複雑になる:OSごとに異なる不具合や機能の差が出てしまう
- 保守・運用が大変になる:アップデートやセキュリティの対応に、2倍の手間がかかる
クロスプラットフォーム開発のメリット
クロスプラットフォーム開発なら、これらの悩みをまとめて解決できます。
ひとつのコードで両方のOSに対応したアプリを開発できるため、開発にかかる手間を約半分に減らせるんです。
さらに、「ホットリロード」という、コードの変更をすぐにアプリに反映できる機能があるため、開発スピードもぐんと上がります。
つまり、限られた時間とお金で、より多くの機能を、より早く提供できるようになるということです。
人気のモバイル開発フレームワークを徹底比較
前述の通り、クロスプラットフォーム開発は、アプリ開発の課題を解決してくれる非常に有効な手段です。中でも、特に人気が高いのが「Flutter」と「React Native」の2つです。
どちらも同じように「ひとつのコードで複数のOSに対応できる」というメリットがありますが、それぞれ得意なことや特徴が異なります。
ここでは、両者の違いを比較表も交えて詳しく見ていきましょう。
Googleが開発した新しいUIフレームワーク「Flutter」

Flutterは、Googleが作ったオープンソースのソフトウェア開発キットです。「Dart(ダート)」というプログラミング言語を使っており、きれいで滑らかなアプリ画面を作ることに特化しています。
2025年現在、標準となっている「Dart 3.x」というバージョンでは、コンパイルが速くなり、プログラムの安全性が大幅に高まりました。
以前はスマホアプリ開発が中心でしたが、この進化のおかげで、今はWebサイトやパソコン用のアプリも、Flutterを使って効率的に作れるようになっています。
- 独自のUIレンダリングエンジン:画面をすばやく、きれいに描画する
- ウィジェットベースの設計:ウィジェットを組み合わせて画面を作るため、再利用しやすい
- ホットリロード:変更がすぐに反映されるので、開発がスピーディーに進む
- 高いパフォーマンス:アプリの動作が軽快で、動きがスムーズ
- 価格:完全無料のオープンソース
Metaが開発した実績豊富なフレームワーク「React Native」

React Nativeは、Facebook(現Meta)が開発しました。「React(リアクト)」というWeb開発でよく使われる技術がベースなので、JavaScriptやTypeScriptの知識があれば、アプリ開発を始めやすいのが大きなメリットです。
- Web技術が使える:Web開発者がアプリ開発に挑戦しやすい
- 豊富なエコシステム:Web開発で使われる便利なツールやライブラリを、アプリ開発にも活かせる
- Expo環境:開発を大幅に効率化できる便利な環境
- 高性能:新アーキテクチャ(New Architecture)の実装によってJavaScriptとネイティブ間の通信が大幅に効率化され、パフォーマンスの差はほぼ解消済み
- 価格:完全無料のオープンソース
Reactについて詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください!
> Reactとは?主な特徴やメリット・デメリット、開発の始め方まで徹底解説!
技術的パフォーマンス比較
GMOインターネットグループが行った検証によると、シンプルなアプリでの比較では以下のような結果が出ています。
項目 | Flutter | React Native |
---|---|---|
アプリサイズ | より小さい傾向 | やや大きめ(※1) |
アプリ起動時間 | 標準的 | やや優位(※2) |
メモリ使用量 | 標準的 | より効率的(※3) |
※1:2025年のアップデートで両者のアプリサイズの差は縮小されている可能性があるため、「一般的な傾向」としつつも環境次第で変わりうる。
※2:Flutter側も起動速度最適化のアップデートを進めており、条件によっては互角となることも。
※3:React NativeのHermesエンジンやFlutterの最適化機能により、状況依存となることも。
なお、これらはあくまでシンプルなアプリでの比較です。実際のビジネスアプリでは、要件によって結果が変わってくる点に注意しましょう。
企業でのFlutter・React Nativeの活用事例
ここでは、実際に企業がどのようにFlutterやReact Nativeを活用しているのか、5つの事例をご紹介します。

【事例1】ユニクロ(Flutterを採用)
ユニクロは、世界中でアプリの見た目や使いやすさを統一するために、Flutterを導入しました。その結果、開発期間を40%短縮し、アプリストア評価も向上しています。
(成果)
- 開発にかかる期間が従来の60%にまで短縮
- 全世界で統一されたブランドイメージを保てた
- アプリの評価が4.2点から4.6点に上がった
(工夫した点)
- Flutterの機能を活かして、ブランドカラーやフォントを完全に再現した
【事例2】Instagram(React Nativeを採用)
Instagramは、Web開発のエンジニアがそのままモバイルアプリ開発にも関われるように、React Nativeを導入しました。その結果、リリース頻度が大幅向上し、エンゲージメントも15%アップしました。
(成果)
- Web開発チームがモバイルアプリ開発にそのまま参加できた
- 機能のリリース頻度が、月に1回から週に2回に増えた
- ユーザーの利用度合いが15%上がった
(工夫した点)
- Webで使っていた部品(コンポーネント)をアプリ開発にも活用し、効率を最大限に高めた
【事例3】メルカリ ハロ(Flutterを採用)
メルカリは、新しい求人アプリ「メルカリ ハロ」を素早く市場に出すために、Flutterを選びました。その結果、開発期間を半分に短縮、少数精鋭での開発を実現しました。
(成果)
- 開発開始から6ヶ月でアプリをリリースできた(想定の半分の期間)
- 少人数のチームでも開発を進められた
- アプリの使いやすさテストで高い評価を得られた
(工夫した点)
- Flutterにある豊富な部品(ウィジェット)を活用し、複雑な画面も効率よく作った
【事例4】Shopify(React Nativeを採用)
Shopifyは、eコマースプラットフォームのスマホアプリを最適化するために、React Nativeを導入しました。その結果、5年間安定運用し、グローバル展開を支えました。
(成果)
- 5年以上の運用で、たくさんのノウハウが蓄積された
- 世界中の市場で安定したサービスを提供できている
- 外部の便利なライブラリとの連携がしやすい
(工夫した点)
- 少しずつReact Nativeに移行する計画を立て、リスクを最小限に抑えた
【事例5】スタディサプリ(Flutterに移行)
スタディサプリは、既存のアプリの管理をしやすくしたり、新しい機能の開発を効率化するために、Flutterへの移行を決めました。その結果、保守工数を40%削減し、開発スピードが2倍向上しました。
(成果)
- コードがひとつになったことで、メンテナンスにかかる手間が40%削れた
- 新しい機能を作るスピードが2倍に上がった
- 見た目や使いやすさに一貫性が出たことで、ユーザーの満足度が上がった
(工夫した点)
- サービスを止めずに移行を進める計画を立て、スムーズにFlutter化を完了させた
メリット・課題を客観的に比較
ここでは、FlutterとReact Nativeをさまざまな視点から比較します。どちらを選ぶべきかの判断材料にしてください。
Flutter・React Native比較表

ポイント | Flutter | React Native |
---|---|---|
学習コスト | 新しい言語「Dart」を覚える必要あり | Web開発経験者になじみのあるJavaScriptなどで開発できるため、学びやすい |
開発速度 | ホットリロード機能があるためスピーディー | 開発環境の「Expo」を活用すれば、さらに効率が上がる |
UI/UXの統一性 | OSを問わず、完全に統一されたデザインを実現可能(ただし、OSが持つ標準的なUIや、利用者が慣れ親しんでいる操作感とは異なる場合があるため注意) | OSごとのデザイン差が残る可能性がある (ただし個別にスタイルを調整したり、共通のUIライブラリを導入することで統一性を調整可能) |
パフォーマンス | 非常にスムーズで、ネイティブアプリと遜色ない動き | 改善は進んでいるが、複雑な処理では制約が出ることも |
エコシステム | まだ成長中だが、便利なツールやライブラリが増加中 | Web開発の資産を活かせるため、非常に豊富 |
人材確保 | 新しい技術のため、熟練したエンジニアはまだ少ない現状 | JavaScript/TypeScriptのエンジニアは多いため、候補者が豊富 |
企業サポート | Googleが強力にサポートしており、将来性が期待できる | Meta(旧Facebook)と、世界中のコミュニティが支援 |
共通して注意したいポイント
どちらのフレームワークも、完璧なわけではありません。ここでは、共通する課題と、その解決策について解説します。
課題①:OS固有の機能を使えないことがある
新しいOSの機能が、フレームワークで使えるようになるまでに時間がかかることがあります。
プラットフォームチャネルなどの機能を使って、ネイティブ(OS固有の)のコードを直接組み込むことで解決できます。
課題②:OS特有の不具合が起きる
OSごとに異なる不具合が発生し、原因の特定が難しい場合があります。
ネイティブ開発の知識があるエンジニアもチームに加えることで、対応しやすくなります。
課題③:フレームワークのアップデートが大変
フレームワークが更新されると、それに合わせてコードを修正する手間が発生します。
定期的にバージョンアップを行い、少しずつ移行する計画を立てておきましょう。
クロスプラットフォーム開発がビジネスに与える影響
2025年以降、5GやAI技術の進化によって、アプリに求められる機能はさらに高度になります。この流れに素早く対応し、どんどん新しい機能を追加できるクロスプラットフォーム開発は、今後ますます重要になっていくでしょう。
業界全体への影響
スマホアプリがビジネスの中心になる「モバイルファースト」の時代において、クロスプラットフォーム開発を取り入れることは、単なる技術選びではありません。会社の競争力を高めるための重要な戦略になります。
- 金融業界:新しいサービスを早く市場に出すことが、競合に勝つための鍵です。これまでは半年かかっていたサービスを3ヶ月でローンチできるようになり、市場をリードしやすくなります。
- 流通・小売業界:お店とアプリを連携させる「オムニチャネル戦略」において、統一された見た目や使いやすさのアプリを短期間で提供できるため、顧客満足度を上げ、売上アップにもつながります。
競争力の差が広がる
クロスプラットフォーム開発を取り入れた企業と、従来の開発方法にとどまる企業の間には、はっきりと差が生まれています。
- 開発スピード:新しいサービスや機能を市場に出す速さに、最大2倍の差が出ます。
- コスト効率:同じ機能のアプリを開発する場合、約50%ものコスト差が生まれることもあります。
- 人材活用:少ないエンジニアでも、より多くの成果を出せるようになります。
FlutterとReact Nativeを学ぶなら? おすすめの学習リソース3選
技術習得を考えている方に向けて、おすすめの学習リソースを3つご紹介します。
【Flutter学習】「Flutter大学」
日本語の解説が豊富で、初心者から経験者まで幅広く学べるオンライン学習プラットフォームです。基礎から実践まで、アプリを実際にリリースするまでの流れをステップ形式で丁寧に解説してくれます。
【React Native学習】「Udemy完全版コース」
動画で実践的な開発を学べるサービスです。JavaScriptの経験者が、プロレベルまで体系的に知識を身につけられます。実際にコードを書く様子を見ながら学習できるため、理解が深まります。
【技術選定・比較】「Zenn技術記事」
現役エンジニアが書いた技術情報がたくさん投稿されています。最新の動向や、実際に開発した現場での成功・失敗談も読めるため、これから技術選定を行う担当者の方にとって、実践的な判断材料になります。
2025年のモバイル戦略に向けて
クロスプラットフォーム開発を始めるための具体的なステップを、期間別にご紹介します。
- 【短期アクション(1~2ヶ月)】
- 既存のアプリに、小さな機能追加をクロスプラットフォーム開発で試してみましょう。
- チームとの相性や、実際にどれくらい効率が上がるのかを体感できます。
- 【中期アクション(3~6ヶ月)】
- 社内のエンジニア向けに、FlutterまたはReact Nativeの学習計画を立てましょう。
- 外部の研修や社内での勉強会を開くことで、チーム全体の技術レベルを上げられます。
- 【長期アクション(6ヶ月以上)】
- 新しいアプリの開発プロジェクトで、クロスプラットフォーム開発を本格的に導入することを検討しましょう。
- 既存のシステムとの連携も含めた、会社全体の開発戦略を見直すことが、競争力を高める鍵となります
2025年、モバイル戦略の再構築へ
2025年は、アプリをビジネスの中心に据える企業と、そうでない企業との差がさらに広がる年となるでしょう。クロスプラットフォーム開発は、この大きな変化に対応するための重要な技術です。
この機会に、効率的で競争力のあるモバイル開発体制を構築するために、一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。
弊社では、大企業が新しい時代に対応するための支援として、FlutterとReact Nativeを使ったアプリ開発サービスを提供しています。
どの技術を選ぶべきかの相談から、実際の開発、そして運用まで、お客様の事業の段階に合わせてトータルでサポートいたします。
特に、金融機関や流通・小売業界での豊富な実績を活かし、セキュリティ対策など業界特有のニーズにもお応えします。リスクを抑えながら、効率的にアプリ開発を進められる体制づくりをお手伝いします。