コロナウイルスの影響でうつ病や精神疾患が増加傾向にあり、「メンタルヘルス」が近年いっそう注目を集めています。
ビジネス領域においてもそれは同様で、リモートワークの急増により多くのビジネスパーソンが大きなストレスを抱えており、メンタルケアの必要性が高まっています。
株式会社ラフールは、そんなビジネスパーソンのメンタルヘルスに関するサービスを提供する企業です。同社の代表取締役社長・結木啓太氏は、情報セキュリティのコンサルティング会社に勤めていた頃、SNS上で情報漏洩を行う従業員がメンタルヘルスに問題を抱えているケースが多いことに気づいた経験から、メンタルヘルスケアのニーズを感じて起業。企業向けに、ストレスチェックツールを提供した後、従業員の心身の健康状態やエンゲージメントなどをケアし改善する「ラフールサーベイ」を開発し、現在約800社の企業に利用されています。
今回In-Pocketでは、同社の取締役 兼 執行役員事業部長である井村雄大氏に「ラフールサーベイ」についてインタビューを行いました。
目次
従来のメンタルケアに感じた不満から、精神科医や心理学部教授と研究開発
−−はじめに「ラフールサーベイ」の概要を教えていただけますか?
従業員の方に質問を回答いただくことで、従業員の心身の健康状態や、エンゲージメント(自社への愛着度)を把握するための企業向けサービスです。具体的には、全19問で構成される毎月のショートサーベイでメンタル、フィジカル、エンゲージメントの動きを定点的に観測し、全141問で構成されるディープサーベイで年に1〜2回深掘りを行い、メンタル、フィジカル、エンゲージメント、ハラスメント/離職リスク、組織との関係性、現在の仕事との親和性などを包括的に観測します。
また、従来のサーベイでは調査して終わりというケースが多いですが、調査後に具体的な改善立案や対策をワンストップで提供するのも「ラフールサーベイ」の特徴です。
−−このサービスによって、どんなイノベーションが起こるのでしょうか?
離職率の抑制、生産性の向上が見込まれるほか、ハラスメント/離職リスクなどが可視化できます。
また、サーベイに回答した従業員の方々にはマイページ※を提供し、自身が抱えている課題を認識できるようにして、状況に応じてセルフケアのためのコンテンツを提案しています。
- 自身の回答結果を閲覧でき、結果に対して15万通りのアドバイスやセルフケア動画などのコンテンツを体験できる機能
−−「ラフールサーベイ」の開発を始めた経緯を教えてください。
まず、2015年から法制化されたストレスチェック制度のみでは質的なメンタルヘルスケアは実現できないという課題意識がありました。
そして、2018年に働き方改革法が施行された頃から健康経営が注目されるようになり、「ストレスチェックだけでなく健康経営のサポートもしていただけないか?」というご依頼をいただいたことをきっかけに、それまでの約3年間のご支援で溜まっていた約3,000社、18万件のデータをベースに、「従業員はどのような精神状態の時に離職しやすいのか?」という研究を本格的に始めました。
精神科医の先生や立正大学の心理学部と共同で、既存のストレスチェックの調査項目に改良を加えていき研究を重ねた結果、上司や同僚との人間関係や目標達成率、入社前の会社への期待と入社後の会社の対応に感じたギャップ、といった指標が離職に大きく影響を与えることが分かり、しっかりとメンタルヘルスケアをできるサービスとして「ラフールサーベイ」の構築を始めました。
−−「従業員のメンタルヘルスケアサービス」としてではなく、「企業の生産性向上を目的とするサービス」として打ち出している理由とは?
僕らは基本的に個人単位で健康管理・促進をしていきたいと思っています。
しかし、進め方に“順番”があると感じています。というのも、日本は諸外国と比べ保険制度が整っているので、フィジカルやメンタルについて予防意識が低いです。
海外では優秀なビジネスマンほど自らカウンセラーをつけて悩み相談を行うことで、メンタルのケアをしたりしていますが、日本人はまだまだそこに関する意識が強くありません。そういう状況においては「セルフケアを促進」よりも「企業の生産性向上と利益率アップ」を打ち出し、それを入り口としてセルフケアを促進すべきだと考えております。
「シンプル」の意味を問うUI/UX設計、スピード感をもった開発
−−日々の業務に追われる従業員の方にサーベイに回答してもらうには、UI/UXの設計が重要になるのではないかと思います。「ラフールサーベイ」のUI/UXについてどのような点を意識されていますか?
「シンプル」の意味を考えながら作るようにしています。僕はもともとSEとしてキャリアを始め、その後事業開発をやっていたのですが、その中で痛感したのは「見やすさ」「シンプルさ」「伝わりやすさ」がないと上手くいかないということです。単にシンプルすぎてもダメで、そこに必要な説明がないとユーザーさんは不安なのでボタン押さないんです。それと目線の動きも重要です。
上から下に向かう導線で設計するならそれを徹底する必要があります。
−−「ラフールサーベイ」のプロジェクトは企画からローンチまで2〜3ヶ月程度と伺いました。かなり早いですよね?
はい。大掛かりなものならもっとかかることもありますが、基本的には社長か私が発案したものを、私が1〜2週間ほどで企画書としてまとめて、開発のマネージャーが詳細の仕様を詰め、社内で開発します。それで大体1プロジェクト2〜3ヶ月くらいを見込んでいます。
−−スピード感を重視して社内で開発体制を整えているのでしょうか?
はい。以前は開発会社さんに外注していたケースもありましたが、企画に対して細かいところで“迷い”が生じたり、企画を固めてからでも「これってどうするんだっけ?」という点は出てきてしまい、スピード感が少々遅いなと感じていました。今は私が判断軸となり、スピード感をもつようにしたことで社内でも開発がスムーズにできるようになりました。そこからは、まず作ってみて、PDCAを回して「いけそう」と判断したら改良していく方式を採っています。そうなれば社内でやってしまった方が早いですからね。開発会社さんにお願いする場合、ラフールサーベイの作法のようなものを教育する手間がかかってしまいますし、開発会社さんのディレクターの力によってスピード感が大きく左右されます。それなら自らディレクションした方がはやいと僕は考えています。
−−ちなみにスピード感を重視する理由とは?
やりたいこと、やらなきゃいけないこと、お客さんに提供したい機能がたくさんあるので、これくらいのスピードでやらないと間に合わないということです。そのスピード感を作るために、判断する立場である私は判断のスピードを上げています。
−−ありがとうございます。最後に、これから新たなサービスを立ち上げる方へアドバイスをいただけますか?
UI/UX一つで、サービスの成長スピードが大きく変わってきます。クラウドのサービス、いわゆるSaaSって基本的には”肉付け方式”だと思うんです。既存のパッケージものはアップデートして機能を追加していきますが、クラウドものは「いつの間にか新しい機能が搭載されている」ということができます。しかし、それを成立させるためには最初からUI/UXの基礎設計をしっかりと行い、デザインをシンプルに作っておく必要があります。そしてそのためにはユーザーの気持ちを先回りして想像し、その上で設計することが重要です。よく「良いものを作れば売れる」という考えがありますが、それでは売れません。売れるのは、設計者が良いと思っているプロダクトではなく、ユーザー側の気持ちに立ったプロダクトです。その差を考えることは重要だと思います。
−−新型コロナウイルスは、様々な生活様式の見直しとなりました。
今回のラフール様の様に、自身のメンタルを見直し管理することによりより生産性の高い仕事パフォーマンスの実現になるのだと、このインタビューを通し改めて思いました。
株式会社ラフール様
ラフールサーベイ