目次
はじめに
近年のビジネス環境は、日々進歩する技術に伴い、市場のニーズもめまぐるしく変化しています。そんな状況に対応するため、ソフトウェア開発においては開発と運用のプロセスを統合し、迅速にリリースしていくことを目的としたDevOpsの考え方が重要性を増しています。
※DevOpsについては以下の記事で詳しく解説しています。
・DevOpsとは?DXが進む企業の約8割が実践!メリットや導入方法を解説
・DevOpsとアジャイル開発の違い:メリット、注意点、導入方法も解説
DevOpsの導入においては、プロセスの自動化や開発/運用チーム間のコミュニケーションをスムーズにするためのツールを取り入れること、そしてそれらを組み合わせることが必要不可欠です。DevOpsを実現するために必要なツールの組み合わせのことをDevOpsツールチェーンと呼びますが、開発からデプロイ、運用までの一連のプロセスの中で必要となるツールをピックアップしツールチェーンを構築していきます。この記事では、ツールチェーンの重要性からツールの具体例、さらにツール選定のプロセスと注意点まで詳しく解説します。
DevOpsツールチェーンとは?目的と重要性
定義と目的
DevOpsツールチェーンとは、ソフトウェア開発から運用までを効率化し、一貫して進めるために使用されるツールの組み合わせです。これらのツールは、コードの作成からデプロイメント(本番環境への展開)、運用、そしてモニタリング(監視)までのプロセスを自動化し、迅速かつ信頼性の高いソフトウェアリリースを実現します。
単一のツール導入ではなく、ツールを「組み合わせる」というところがツールチェーン構築において重要なポイントになっています。ではなぜ組み合わせることが重要なのでしょうか?
なぜ重要なのか?
DevOpsツールは個々でも重要ですが、大切なポイントはこれらのツールを組み合わせてツールチェーンを構築することで、さらに大きな効果を生み出せるというところです。DevOpsの考え方のもと、各セクションで有効なツールをしっかりと連携させることで開発プロセス全体を自動化し、さらに効率的に進めることができるようになります。ツールチェーンの構築により、開発から運用までの全体プロセスをシームレスに連携させ、一貫性と効率性を最大化できるのです。
また、ツールチェーンはプロジェクトの規模に応じて拡張させたり、縮小させたりすることが可能なので、必要に応じて最適化することができます。
組み合わせることで管理が煩雑になるのでは?と心配される方もいるかもしれませんが、構成管理やリリース管理などのプロセスを一元化することで、管理を容易にすることも可能です。
ツールチェーンのメリット
続いて、ツールチェーンを取り入れることによる具体的なメリットを一つずつ見ていきましょう。
・自動化の推進
各ツールが連携することで、開発からリリースまでのプロセス全体を自動化できます。例えば、開発者が新しいコードを追加すると、そのコードが自動的にテストされ、問題がなければソフトウェアとしてまとめられ、実際の環境に配置されます。この一連の流れが自動化されることで、手動作業によるミスを減らし、より迅速に新しい機能や修正を提供できるようになります。
・一貫したワークフロー
開発プロセスの各段階(コード作成、ビルド、テスト、デプロイ、モニタリングなど)が統合されることで、一貫性のある作業手順で工程を進めることができます。これにより、どの環境でも同じ手順で動作するようになり、環境ごとに手順が異なるといった問題が減少します。
・効果的な問題解決
継続的な監視体制とリアルタイムのコミュニケーションツールが連動することで、問題が発生した際に迅速に対応することができます。例えば、システムが異常を検知すると、すぐにチームに通知が届き、開発チームと運用チームが対応に取りかかるまでの時間のロスを削減できるといった効果があります。
・スケーラビリティと柔軟性
システムが自動的に拡張される仕組みを組み込むことで、需要の変動に柔軟に対応できます。これにより、システムの停止時間が減り、ユーザーにとっての使いやすさの向上につながります。
・セキュリティの強化
セキュリティ対策を開発プロセスに組み込むことで、プロジェクトの初期段階から安全性を確保できるようになります。例えば、コードを作成する際に自動でセキュリティチェックを行い、脆弱性を早期に発見し修正することができます。
このように各プロセスのツールそれぞれが効果的に作用しあい、相乗効果で全体の効率性アップと開発スピードの向上が期待できます。
ツールチェーンの種類
ツールチェーンの構築方法は、サービスの提供スタイルにより2種類に分けることができます。
1つは単一のベンダーが提供する各プロセスのツールがセットになっているオールインワンのツールチェーン。もう一つは、各社が提供しているツールを自由に組み合わせてカスタマイズさせるツールチェーンです。
それぞれメリットとデメリットがあるので、詳しく解説していきます。
オールインワンのツールチェーン
端的にいうと、DevOpsを導入したばかりの企業やグループ、またはプロジェクトをすぐに開始したいチームにとって便利な方法です。
■メリット
1.統合性
すべての機能が1つのプラットフォームに統合されているため、ツール間の連携がスムーズです。これにより、ワークフローの効率が向上します。
2.一貫性
ユーザーインターフェースや操作方法が統一されているため、ツールの学習コストを低く抑えることができます。また、開発チームと運用チームが共通の操作スキルを持てるようになるため、DevOpsチーム全体で安定して使いこなすことができるというメリットがあります。
3.整ったサポート体制
単一のベンダーから一定品質のサポートを受けられるため、迅速に問題を解決することができます。
4.コスト効率
個別のツールを購入するよりも、初期費用は高くなる傾向がありますが、総合的に見るとコストが抑えられる可能性があります。
■デメリット
1.柔軟性の制限
特定の機能に特化したツールと比べて、各機能の深さや柔軟性が劣る場合があります。
2.ベンダーロックイン
1つのベンダーに依存することになるため、将来的な変更や移行が困難になる可能性があります。
3.必要以上の機能性
組織が必要としない機能も含まれている場合があり、それが複雑さやコストの増加につながることがあります。こちらは、メリットにあった4. コスト効率の裏返しともいえますね。
4.更新の制約
ツールの一部分だけを更新することが難しく、全体的な更新が必要になる場合があります。
■具体例
世界的な大手企業が提供しているため、聞き覚えがある方も多いかもしれません。
1.GitLab
GitLabは、ソースコード管理、CI/CD、イシュートラッキング、セキュリティテストなど、DevOpsライフサイクルの多くの側面をカバーする包括的なプラットフォームです。
2.Atlassian Suite
JiraやConfluenceなどの製品を含むAtlassianのツールスイートは、計画から運用までの幅広い機能を提供します。
3.Microsoft Azure DevOps
Azureプラットフォームと密接に統合された、計画、開発、テスト、デプロイメントまでをカバーする包括的なDevOpsソリューションです。
4.JFrog Platform
ビルド、テスト、セキュリティスキャン、アーティファクト管理、デプロイメントなど、DevOpsプロセス全体をサポートするプラットフォームです。
カスタマイズのツールチェーン
ほぼオールインワンの逆の話にはなりますが、メリットとデメリットをあげていきます。
■メリット
1.自由度の高さと柔軟性
各機能に特化したツールを選択できるため、より高度な機能や柔軟性が得られます。
2.コスト効率
必要な機能のみを選んで導入できるため、コスト効率がいい場合があります。
3.変更や移行の容易さ
ベンダーロックインのリスクが低く、将来的なツールの変更・移行が比較的容易です。
■デメリット
1.連携や統合の手間
ツール間の連携や統合に、ツール導入とは別途で工数がかかる場合があります。
2.学習コストの高さ
複数のツールを学習する必要があり、チームの学習コストが高くなる可能性があります。
3.ツール管理上の運用の複雑さ
各ツールが異なるベンダーから提供されるため、ライセンス管理やサポート契約が個別に必要となり、ツール管理上の運用の複雑さが増す可能性があります。あえて”ツール管理上の”と書いたのは、正しくツールどうしを統合すれば、ツールを利用していく上での運用の煩雑さはクリアできるためです。
オールインワンにするかカスタマイズにするかは、組織の規模やニーズに応じて選択することが必要になります。小規模なチームや、DevOpsプラクティスを始めたばかりの組織にとっては、オールインワンソリューションが適している場合がありますが、大規模で複雑な環境を持つ組織では、特定の機能に特化した個別のツールを組み合わせる方が適している場合もあります。
DevOpsツールは開発と運用における各プロセスごとに大まかに分類することができます。各プロセスの一連の流れはDevOpsライフサイクルと呼ばれ、主に8つのフェーズに分けられます。(考え方や実践する組織によって、7つと定義される場合もあります。)
では、DevOpsライフサイクルに従って、具体的なツール名をご紹介していきましょう。
DevOpsライフサイクルとツールの具体例
DevOpsライフサイクルは、ソフトウェア開発と運用のプロセスを統合し、効率的かつ継続的にソフトウェアを提供するための一連のステージを指します。各ステージは、ソフトウェアのアイデアからデプロイメント、運用、そして改善までの全過程をカバーしています。DevOpsライフサイクルは、以下の主要なフェーズで構成されています。
1. 計画(Plan)
計画フェーズは、DevOpsライフサイクルの最初のステージであり、プロジェクトの目標や要件を定義する重要な段階です。このフェーズでは、プロジェクトの全体像を把握し、開発のスコープを明確にします。具体的な活動としては、要件定義、プロジェクト管理、タスクの分割、リソースの割り当てなどが含まれます。効果的な計画は、プロジェクトの進行を円滑にし、後続のステージで発生する可能性のある問題を未然に防ぐための基盤を築くという重要な役割があります。
使用するツールとしては、JiraやTrello、Asanaなどがあり、これらのツールはタスク管理やチームのコラボレーションをサポートし、計画の可視化と追跡をすることができます。計画フェーズでの明確な目標設定と詳細な要件定義は、プロジェクトの成功に直結していきます。
◆具体的なツール
- Jira
- Trello
- Asana
2. コード作成(Code)
コード作成フェーズは、開発者が実際にソフトウェアのコードを書く段階です。このステージでは、要件に基づいて新しい機能を実装し、既存の機能を改善します。コーディングはチーム全体で行われるため、バージョン管理システムを用いてコードの変更履歴を追跡し、複数の開発者が同時に作業できるようにします。
Gitはこのフェーズで広く使用されるバージョン管理ツールであり、GitHubやGitLabと組み合わせて使用することが多いです。これらのツールは、コードの共有、レビュー、コラボレーションをサポートします。コードレビューを通じて品質を確保し、バグの早期発見を促進します。
さらに、GitHub Actionsを利用することで、コード作成フェーズにおける継続的インテグレーション(CI)と継続的デリバリー(CD)を自動化することができます。GitHub Actionsは、コードの変更がリポジトリにプッシュされた際に自動的にテストやビルドを実行し、問題の早期発見と修正を可能にします。これにより、効率的なコード作成フェーズは、後続のビルドやテストフェーズにおいて安定した基盤を提供します。
◆具体的なツール
- Git
- GitHub
- GitHub Actions
- GitLab
※GitとGitHubの違いはこちらで解説しています。
3. ビルド(Build)
ビルドフェーズは、開発者が書いたソースコードを実行可能なソフトウェアに変換する重要なプロセスです。この段階では、必要な外部ライブラリやコンポーネントを収集し、依存関係を解決します。次に、ソースコードをコンピュータが理解できるバイナリ形式に変換します。
このプロセスは、MavenやGradleといったビルドツールを使用して自動化することができます。また、Jenkinsを利用することで、コードの変更があるたびに自動的にビルドが実行され、開発者は早期に問題(バグ、コードのコンフリクト、ビルドプロセスで発生するエラーなど)を発見しやすくなります。Jenkinsは、拡張可能なビルド環境を提供します。
安定したビルド環境を整えることは、後続のテストやデプロイフェーズにおいて信頼性の高い基盤を提供し、効率的な開発プロセスを支える要となります。
◆具体的なツール
- Maven
- Gradle
- Jenkins
4. テスト(Test)
テストフェーズは、ソフトウェアの品質を確保するための重要な段階です。このフェーズでは、コードが正しく動作するかを確認するために、ユニットテストや統合テスト、機能テストなどが行われます。
テストは自動化ツールを使って迅速かつ効率的に実施され、特にJUnitがユニットテストでよく使用されます。また、SonarQubeはコードの品質を分析し、潜在的な問題を見つけるのに役立ちます。これらのツールは、コードがソースコード管理システムに追加されるたびに自動でテストを実行するように設定できます。
さらに、AWS CodePipelineなどを利用することで、テストプロセス全体を自動化し、コードの変更があるたびにテストを自動的に実行できます。テストを徹底することで、バグやセキュリティの問題を早期に発見し、リリース前に品質を確保することが可能です。高品質なテストは、安定したソフトウェアのリリースを保証します。
◆具体的なツール
- JUnit
- SonarQube
- AWS CodePipeline
5. リリース(Release)
リリースフェーズは、テストをクリアしたソフトウェアを実際に使う環境に準備する段階です。このステージでは、ソフトウェアを配布するためのパッケージを作ったり、リリースノートを作成したり、リリースの承認を行います。
Circle CIやAWS CodePipeline、GitLab CI/CDなどのツールを使うと、ソフトウェアの更新を自動的に配布する仕組みを作ることができます。これにより、変更がすばやく安全に実際の環境に反映され、手作業によるミスを減らし、プロセスの一貫性を保てます。
また、リリース前にテスト用の環境で動作確認を行うことで、本番環境に移す前に問題を見つけて修正できます。効率的なリリースプロセスは、ユーザーに新しい機能を早く提供し、システムを安定して運用するのに役立ちます。
◆具体的なツール
- CircleCI
- AWS CodePipeline
- GitLab CI/CD
6. デプロイ(Deploy)
デプロイフェーズは、テスト済みのコードを本番環境にデプロイし、ユーザーに提供する段階です。このプロセスには、アプリケーションの稼働環境への配置、環境設定の適用、デプロイの検証が含まれます。
Dockerは、アプリケーションをコンテナ化(どの環境でも同じように動作するように必要なファイルやライブラリをまとめてパッケージ化すること)し、一貫性を保ちながらデプロイするために広く使用されるツールです。Kubernetesは、コンテナ化されたアプリケーションの調整を行い、スケーリングや管理を自動化します。これにより、アプリケーションがどの環境でも安定して動作することが保証されます。さらに、AWS AppRunnerを利用することで、デプロイメントプロセスがさらに簡素化され、スケーラビリティと信頼性が向上します。効率的なデプロイメントは、システムの停止時間を最小限に抑え、ユーザー体験を向上させます。
◆具体的なツール
- Docker
- Kubernetes
- AWS AppRunner
7. 運用(Operate)
運用フェーズは、ソフトウェアを実際に使う環境で動かし、安定して動作するように管理する段階です。この段階では、システムの動きを常にチェックし、必要に応じて問題を修正したり、パフォーマンスを良くするための調整を行います。
Prometheusは、システムの動きやデータを集めてリアルタイムで監視するために使われます。Nagiosは、システムの状態を監視し、何か問題があれば警告を出すツールです。また、Grafanaは、集めたデータを見やすく表示するためのダッシュボードを提供します。
このようなツールを使うことで、システムの問題を早く見つけて対応することができ、安定したサービスを提供することができます。効率的な運用管理は、システムが常に安定して動作し、ユーザーからの信頼を得るために重要です。
◆具体的なツール
- Prometheus
- Nagios
- Grafana
8. モニタリングとフィードバック(Monitor and Feedback)
このフェーズは、システムの動きを常にチェックし、ユーザーからの意見を集めて、システムをより良くするための段階です。リアルタイムでデータを集めて分析し、どこを改善すべきかを見つけます。
ELKスタック(Elasticsearch、Logstash、Kibana)は、システムのログデータを集めて分析し、見やすく表示するためのツールセットです。Splunkは、大量のデータを解析し、リアルタイムでシステムの動きを監視します。New Relicは、アプリケーションの動きを詳しく監視し、ユーザー体験を向上させるための情報を提供します。
このようなツールを使って、常にフィードバックを得ることで、問題を早く解決し、製品の質を高め、ユーザーの満足度を向上させることができます。
◆具体的なツール
- ELKスタック(Elasticsearch、Logstash、Kibana)
- Splunk
- New Relic
ツール選定のプロセスと注意点
最後にDevOpsツールを選択する際のプロセスと注意点を説明していきます。ツール選定の際の参考にしてみてください。
1.組織のニーズの把握と目標の明確化
まず、DevOps導入の目的や解決したい課題を特定します。例えば、デプロイ頻度の向上、品質改善、コラボレーション強化などの具体的な目標を設定します。
2.現状の評価
既存のプロセスやツールを評価し、改善が必要な領域を特定します。これにより、新しいツールが解決すべき具体的な問題点が明らかになります。
3.DevOpsライフサイクルの各フェーズに必要なツールの特定
計画、ビルド、テスト、デプロイ、運用、モニタリングなど、DevOpsライフサイクルの各段階で必要なツールの種類を洗い出します。
4.ツールの調査と比較
市場にある様々なツールを調査し、機能、使いやすさ、統合性、コスト、サポートなどの観点から比較評価します。
5.チームの意見収集
開発者や運用担当者など、実際にツールを使用するチームメンバーの意見を積極的に取り入れます。これにより、ツールの採用と導入後の運用開始がスムーズになります。
6.試用とテスト
有力候補のツールを実際に試用し、自社の環境やワークフローに適合するかを検証します。
7.段階的導入
選択したツールを一度にすべて導入するのではなく、優先度の高いものから段階的に導入します。これにより、リスクを最小限に抑えつつ、効果を確認しながら進めることができます。
8.継続的な評価と改善
導入後も定期的にツールの効果を評価し、必要に応じて新しいツールの導入や既存ツールの入れ替えを検討します。
あくまで一例ですが、このようなプロセスを踏むことによって、組織の特性や目標に合致した最適なDevOpsツールチェーンを構築することができます。また、ツールの選択は一度で終わるものではなく、継続的に見直しと改善を行うことが重要です。
まとめ
DevOpsの仕組みを上手く機能させるためには、DevOpsツールチェーンの構築が非常に重要です。自社の現在の状況や開発体制の特徴によって、最適なツールの組み合わせはさまざま考えられます。Web上での調査だけでなく、トライアルを利用したり実際に利用している方に使用感を聞いてみるのもいいかもしれません。ぜひ自社にとって最適なツールチェーンを検討してみてください。
アイスリーデザインではDevOpsツールの導入支援をおこなっております。
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