不動産売買の契約業務をDX化
- UX/UI刷新でミスを削減し、作業時間を大幅に短縮
株式会社不動産SHOP ナカジツ
株式会社不動産SHOP ナカジツは、営業スタッフによる「物件調査および契約書作成」という、不動産売買における極めて重要なプロセスの刷新を検討していました。同社では、紙の調査票や契約書作成システムを併用しており、ムダな転記作業が発生している状況でした。また、チェック品質が担当者のスキルに依存するなど、属人的なフローによって業務効率・品質・組織拡張の面でも課題を抱えていました。
こうした状況を受け、アイスリーデザインは、物件調査票の作成から契約書作成・承認に至るまでの一連の業務に対し、UX/UI設計とシステム開発支援を包括的にワンストップでご支援しました。

Overview
概要
事業拡大に伴い、非効率な業務フローと属人化という課題感が顕著に
不動産売買において、契約書は売主・買主それぞれの権利義務を明確化する重要な文書であり、取引の安全性・信頼性を確保するためには非常に丁寧な記載が求められます。
また、土地・建物・マンション・仲介売買・個人売買など、取引の形態が多岐にわたるため、契約書・調査票に必要な項目・書式も複数存在。法令・特約・建物構造・既存住宅瑕疵など、専門知識や判断を要する項目が多く、精度の高い情報整理が求められる領域でもあります。
こうした背景において、株式会社不動産SHOP ナカジツ(以下、不動産SHOP ナカジツ)では営業スタッフが紙の物件調査票に手書き入力し、その後契約書作成システムへ手動で転記するという非効率な作業が発生していました。また、調査結果・契約書のチェックが管理者のスキルレベルに左右されやすいという課題もありました。さらに、営業エリア・店舗数の増加により、若手スタッフの割合が増え、教育・チェックの負荷が一層高まっていました。
不動産SHOP ナカジツは中長期的な事業拡大を見据え、全国への店舗展開と売上拡大を目標に掲げる中で、社内全体でDX推進に取り組んでいます。本プロジェクトは、そうした中長期目標の実現に向けたDX推進施策の一環として始動しました。
クライアントの課題
業界知識の理解が必要な業務であるにも関わらずナレッジ共有が十分にできておらず、経験やスキルによって作業品質にばらつきが生じていた。
紙ベースの手書き記入や書類チェック、システムへの転記作業など、アナログなプロセスが多く業務効率が低下していた。
チェック工程が煩雑で時間がかかり、管理者への負担が大きかった。
拠点や人員の拡大に対して、既存の業務フローや運用体制が追いつかなくなっていた。
i3DESIGNの解決方法
現場の業務フローを丁寧に分析し、入力・確認のしやすさを重視したデジタル化を実現。誰でもミスなく業務を回せる仕組みを設計。
分断されていたシステムや工程を連携させ、調査票作成から契約書承認までの効率的なフローを構築。
チェック業務をスムーズに行えるUX/UI設計で品質とスピードを両立。
現場の声を反映しながら、属人化しない運用体制を設計。組織拡大にも柔軟に対応できる仕組みを整備。
プロジェクトの成果
調査精度が向上し、再調査の手戻りの数が削減。
契約書作成に要する作業時間を大幅に短縮。
若手スタッフのスキルレベルの向上と同時に、管理者の負担軽減を実現。
Our Approach
取り組み
業務フロー全体を再構築 ー 属人化を解消し、拡大に強い仕組みへ

Before:紙と各人のスキルに依存した不確実性の高い業務フロー
これまで不動産SHOP ナカジツでは、営業スタッフが現地・役所での調査内容を紙の物件調査票に手書きで記入し、その後、契約書作成システムへ手動で転記するという二重作業が発生していました。
さらに、支店長による紙面でのチェックや不備があった際には外部のチャットツール経由で差し戻すといった属人的な確認フローが並行しており、情報の抜け漏れや記入ミス、承認の遅れが発生しやすい体制になっていました。
このように、紙の調査票・システム転記・人によるチェックが分断されていたため、業務全体の効率性と品質が安定せず、教育コストや管理負担の増大も課題となっていました。
■ 若手スタッフによる記入漏れ・誤記の多発
物件調査票の記入内容に若手社員の慣れ・知識不足による漏れ・誤りが目立っており、紙での記入からシステム入力という二重の手間・転記ミスのリスクが高かった。
■ チェック品質のばらつき(管理者のスキル依存)
契約書チェックは専門知識を要し、内容が複雑なため、チェック担当者のスキルにより承認基準・修正率が変動。人員・スキルにより品質の平準化が難しかった。
■ チェック人員の不足
店舗・エリアが拡大する中で、チェックにあたる管理者・支店長の人員確保が追いつかず、若手の記入ミスを発見・修正するリソースが限られていた。
■ 差戻しの多発による業務停滞
記入漏れや誤記による差戻しが多く発生し、1件あたりの再処理時間が長く、契約書作成〜契約締結までのリードタイム増加、さらには購入者へのスピード対応という観点でもリスクが生まれていた。
これらの課題は、物件調査票作成から契約書作成・承認に至る一連の流れが「複雑かつ属人的」である業界特有の構造を背景としており、「記入・転記・チェック・訂正」の工程が多数の条件分岐を含んでいるため、若手のスキル・管理者の経験・人員配置のいずれかの不足によってフロー全体が停滞してしまうという状況に陥っていました。
After:電子化と自動連携により、スキルに依存しないスムーズな業務フローへ
そこでアイスリーデザインは、これらの工程を一気通貫でつながるデジタルフローへ再構築しました。物件調査票を電子化し、入力内容が自動で契約書に反映される仕組みを導入することで、これまで手作業により発生していた転記ミスを解消しました。さらに、経験の少ないスタッフでも正しく入力できるよう、適切な箇所でヘルプやアラートを表示し、記入漏れや誤りを防止するとともに、教育面の支援にもつなげました。
また、チェックや承認もシステム上で完結できるように改善し、管理者が正確かつスピーディーに内容を確認できるようになったことで、承認スピードと品質の両立を実現。フロー全体の効率化とともに、店舗拡大・人員増加にも対応できる再現性のある運用体制を確立しました。

これまで別ツールで行っていた担当者への差戻しを同じシステム内で完結できるように改善。コメント箇所や解決/未解決も一目瞭然で管理できるように。
業務現場の丁寧な読み解きから導いた直感的UI
プロジェクトの初期フェーズに、デザイナーとエンジニアを含むプロジェクトメンバーにて、実際に現場に同行し業務の様子を視察させていただきました。視察では、物件調査において確認すべきポイント、承認フロー、そしてミスや差戻しが起こりやすい箇所などに焦点を当て、調査票作成から契約書承認に至る一連のフローの解像度を高めました。
その上で、UI設計においては「OOUI(Object Oriented User Interface)※」の考え方を取り入れました。
※OOUIとは、ユーザーが操作対象となる“オブジェクト”(=モノ・対象)を起点にUIを設計する手法で、「まずオブジェクトを選び、その後にアクションを選択する」という構造を特徴としています。
システムの画面では、「案件」という単位を操作の対象(オブジェクト)として設計しました。
物件ごとに進む調査から契約書の承認までの流れを、この「案件」単位でひとまとめに管理することで、営業担当・管理者いずれも直感的に操作できる画面構造にしています。
「物件」単位でも構築可能でしたが、「契約承認まで一貫して進める」という目的から、「案件」を起点にする方が分かりやすく操作性が高いと判断しました。
また、営業スタッフが現地での物件調査や役所での確認作業など、出先や屋外で操作するケースが多いことを想定し、スマートフォン画面でも快適に利用できるように画面設計を行いました。
特に、日光下での利用や短時間での情報入力が求められる物件調査画面においては、屋外でも視認性を確保できるようにコントラスト比を高めた色使いを採用し、操作ミスを防ぐためのアクセシビリティにも配慮しています。

物件調査票の入力画面では、説明を補足し記入ミスを防止。さらにスマートフォンでも使いやすい画面構成としました。
プロジェクト進行の面においては、デザイン意図を丁寧に共有することで、システム担当者だけでなく業務担当者とも認識を細かくすり合わせながら進めました。実際に業務を行う現場担当の方にも、定例会議に参加いただき、デザイン・開発チーム間で理解にズレが生まれないようなコミュニケーションを重視しました。
複雑な条件分岐を整理し、正確なシステム設計を実現
開発面においては、多数の条件分岐や既存システムとの連携を正確に整理し、仕様理解のずれを防ぐために業務フローを可視化しました。今回の開発で特に難しかったのは、契約書による必要事項の多岐にわたる条件分岐を正しく把握し、それをシステムに落とし込むことでした。

条件分岐ごとに業務フロー図を整理
併せて、既存のシステムとの連携も複雑だったため、連携ポイントを分かりやすく可視化し、不動産SHOP ナカジツの方々と共通認識を持つことが重要なポイントとなりました。

他システムとの連携を可視化
条件分岐が膨大だった点はテストフェーズにおいても乗り越えるべき大きな課題であり、テスト項目に抜け漏れがないよう、条件ごとに詳細なドキュメントをまとめて整理し、システム担当者と密に連携しながら品質を担保しました。
また、本プロジェクトは将来的な内製化を見据えた開発体制でもあり、ソースコードの可読性や拡張性などコード品質にも配慮しました。クラス設計や命名規則、コメントの構造化など、後続のエンジニアが保守・機能追加を容易に行えるように実装ルールを統一。コードレビューやドキュメント整備も丁寧に行い、社内開発チームがスムーズに引き継げる状態で納品させていただきました。
こうした取り組みを通じて、複雑な業務フローや業界特有の規約を正確に理解し、それらを踏まえたUIやシステム構成を構築しました。業界特有の知識が求められる場面や、既存の業務フローが複雑なケースにも対応できるよう、丁寧な設計と検証を重ねながら開発を進めました。
同業他社への展開も見据え、社内運用を開始
本システムは現在、社内での本格運用を進めています。今後は、他システムとの連携やさらなる自動化機能の実装、対象となる書類や業務範囲の拡大といったフェーズ2の開発を開始する予定で、より高い効果の創出を目指します。また、将来的には同業他社への外販も視野に入れており、不動産業界全体の業務効率化・品質向上の支援へと発展させていく予定です。
クライアントの声
今回デジタル化した業務は、画面項目が多く専門知識も必要で、難易度の高い業務でした。そのため、UX/UIを改善し、少しでもストレスなくわかりやすい業務にしたいと考え、アイスリーデザイン様に協力を依頼しました。細部のUI一つ一つが重要となる中、常に高いレベルの提案をいただいたおかげで、プロジェクトはスムーズに進みました。
また、自動化処理や条件分岐が多く技術設計の難易度が高いシステムでしたが、保守性や将来の機能拡張も見据えた設計をご提案いただき、使いやすさと機能性を両立したシステムを完成させることができました。
今後もさまざまな社内システム開発を企画しており、他の業務領域の新システム開発においても、ぜひアイスリーデザイン様にお願いしたいと考えています。





