「新しいAIツールを導入したのに、思うような成果が出ない」「生成AIは使えているけど、本格的な業務活用には至っていない」──そんな悩みを抱える企業が増えています。
AI活用が進まない根本的な原因は、AIツールそのものではなく「AIを使える状態」になっていないことにあるかもしれません。古いシステムや業務プロセスを抱えたままでは、どんなに優れたAI技術を導入しても、その真価を発揮できないのです。
この記事では、AI活用を阻む3つの構造的課題と、その解決策となる「IT基盤のモダナイゼーション」について詳しくご紹介します。
「AIを活用して競争力を高めたい」「レガシーシステムから脱却したい」という方は、ぜひ最後までお読みください。
また、自社の状況に合わせたモダナイゼーションの進め方を判断できる弊社の知見を集結したロードマップとチェックシートも一部ご紹介します。
ロードマップとチェックシートの全容を含む資料は無料でダウンロードできますので、ぜひご活用ください。
“AIを使える状態”ではないかも?AI活用が進まない企業にありがちな課題
業務にAIを取り入れようとしても、現実には「AIを使える状態」に至っておらず活用が進まないケースがあります。
Gartnerによる日本企業に対するある調査(2025年)によると、Gartnerはオンプレミスの仮想化基盤の移行先としてクラウド・サービスを選択したとしても、単なる「リフト」だけとなり、「最適化」「シフト」には至らず、コストも減らないどころか増えるとみています。
クラウド移行が完了していても本質的な再設計が進んでおらず、結果としてAI活用に必要な柔軟性・拡張性のある基盤が整っていない企業が多いのが現状と言えます。
既存のオンプレミス(自社運用)環境にあるシステムやアプリケーションの構成をほとんど変えずに、そのままクラウド環境に移行(リフト)し、その後必要に応じてクラウドに最適化(シフト)していくクラウド移行の手法のこと。
リフト&シフトにおけるクラウドリフトについては、こちらの記事で詳しく解説しています。併せてご覧ください。
また、経済産業省の「DXレポート2」(2020年)でも、日本企業の約8割が「既存システムの老朽化・ブラックボックス化」をDX・AI活用の最大の障壁と回答しています。
以下では、「AIを使える状態」になかなか至らない企業によく見られる3つの構造的課題を詳しく解説していきます。
技術的負債が蓄積している
第一の課題は、技術的負債の蓄積です。長年使い続けてきた古いプログラミング言語やメインフレーム、密結合のモノリシックなシステム構造がブラックボックス化し、小さな変更でも全体に影響する状態になると、手を出せずに温存され続けてしまいます。
例えばCOBOLやVB6で構築されたシステムで、仕様書が不完全だと「怖くて手を加えられない」部分が発生するでしょう。その結果、システムは劣化する一方です。
このようなことから、レガシーシステムの存在はクラウドやAIなど新しい技術の導入を困難にし、競争力低下を招く要因になります。
実際、レガシー環境で技術的負債が蓄積すると、システム改修や新機能追加に多大なコストと時間がかかるようになります。最新のクラウドサービスやAIを導入しようとしても、旧来システムの制約が障壁となってスムーズに活用できません。
市場や業務の変化に対応できず、AI活用だけでなく現行業務の維持においてもリスクが高まります。
AIを活用できる人材が不足している
第二の課題は、AIを活用できる人材の不足です。AIやデータサイエンスのスキルを持つ人材は限られており、慢性的な人材不足が指摘されています。
経済産業省のIT政策実施機関であるIPAの調査によると、AIを導入する際の課題として「AIに関連する人材が不足している」と回答した企業が62.4%にものぼりました。

また「人が辞めたらシステムの中身がわからなくなる」といった状況も散見されます。仕様書が整備されておらず、誰も全容を説明できない状況になることも珍しくありません。
特定の社員に頼った属人的な体制では、AIの導入を試みても組織全体へ展開できず、その社員が退職・異動すればノウハウが消失してしまいます。
これらのことから、AI人材・知識の不足は、AIプロジェクトの立ち上げや継続的な運用を阻む大きな要因となるでしょう。
AIを活用する体制・業務フローが確立できていない
第三の課題は、AI活用のための組織体制や業務フローが確立していないことです。
AI導入のPoCを行うものの、社内の既存業務プロセスやIT部門との連携が組み込まれておらず、全社的な仕組みとして定着しないケースがあります。
現場とIT部門・経営層との連携不足や、AI活用を推進する明確な責任部署がないなど、社内体制が未整備だとAI活用を妨げる大きな要因になり得ます。
また、既存のシステムと業務プロセスが一体化している企業では、業務を変えなければシステムを変えられません。その逆も同様です。
そのため、「全社的な大改革プロジェクト」なしにはAIを導入できない状態になっているのです。
レガシーシステムから脱却!AI活用したいなら「IT基盤のモダナイゼーション」を
AI活用を本格的に進めるにはレガシーシステムからの脱却が避けて通れません。その鍵となるのが、IT基盤のモダナイゼーションです。
モダナイゼーションとは、古いIT環境やシステムを現代の技術やビジネスニーズに適応した形へ再構築する取り組みを指します。単なるシステムの置き換えではなく、ビジネスの敏捷性や組織能力も含めた構造的な変革を伴う経営戦略的な施策です。
モダナイゼーションについて詳しく知りたい方は、以下の記事も併せてご覧ください。
特にAI時代においては、モダナイゼーションの重要性が従来にも増して高まっています。なぜなら、AI活用はモダナイゼーションなしには成立しないからです。
DXやAI活用で先行する企業と出遅れる企業の差は、モダナイゼーションにどれだけ取り組んだかの差とも言えるでしょう。
ここからは、なぜモダナイゼーションが必要なのか、実施によって何が実現できるのか、そして成功のポイントについて解説します。
なぜIT基盤のモダナイゼーションが必要なのか
IT基盤のモダナイゼーションが必要な理由は、AI時代に戦い抜くための「土台作り」に他なりません。
AIは単なる業務効率化ツールではなく、企業競争力を左右する中核インフラになりつつあります。しかし老朽化したシステムや旧来のプロセスのままでは、高度なAI技術を導入しても組織に根付かせられません。
AIを組織に定着させ、本番環境でスケールさせるには経営インフラの再設計が必要であり、それを実現するのがモダナイゼーションなのです。
具体的には、モノリシックなレガシーシステムから脱却する必要があります。マイクロサービスやAPIファースト設計、クラウドネイティブなアーキテクチャへ移行すれば、変化に即応できる柔軟なIT構造を手に入れられます。
こうした基盤があってこそ、新たなAIモデルの追加や改良を迅速に行えます。周辺システムとの連携も容易になるでしょう。
逆に言えば、モダナイゼーションが不十分ではAIを活用できる状態に至っていません。どんなに個別のAIツール導入に熱心でも、成果が限定的になってしまいます。
IT基盤のモダナイゼーション実施で叶うこと

IT基盤のモダナイゼーションを推進すると、企業はさまざまな恩恵を得られます。
第一に、システムアーキテクチャの刷新によって柔軟性・拡張性の高いシステム構造が実現します。必要な機能を必要なときに追加・修正しやすい拡張性を確保できるでしょう。
これにより、新たなAIモジュールをユースケースごとに自由に組み込み、既存システムとスムーズに連携させることが可能になります。
第二に、DevOpsの文化を醸成し、CI/CD(継続的インテグレーション/デプロイ)やIaC(インフラ構成のコード化)を導入することで、自動化基盤の整備が整います。
この基盤が整うことで、機械学習モデルの訓練・更新・デプロイまでをパイプライン化できます。その結果、モデルの精度向上やデータ基盤の拡張を自動的かつ繰り返し実行できるようになり、AIシステムが実運用の中で継続的な価値創出を行うサイクルが回せるようになります。
第三に、モダナイゼーションを通じて人材スキルや組織知識のアップデートが図れます。レガシー環境から脱却するプロセスで、IT部門・現場部門の双方が新しい技術への習熟を高められるでしょう。
データ活用の知見も深まり、属人的な状態を解消できる可能性もあります。特定の社員だけに頼らない体制へ移行し、AIの企画・開発・運用をチーム全体で推進できれば、組織全体にAIリテラシーが行き渡ります。
モダナイゼーションの実施によって得られるものは、単なるシステムの近代化に留まりません。AI時代に必要な柔軟なシステム設計、自動化された開発・運用基盤、AIを使いこなす人材・組織への進化など、包括的な成果を得られるでしょう。
成功のポイントは「技術刷新」「組織改革」の同時進行
モダナイゼーションを成功させるには、技術面の刷新と組織面の改革を両輪として進めることが大切です。新しいクラウド基盤やAI技術を導入するだけでは不十分で、従来の組織構造・業務プロセス・文化も併せて変えていかなければ、最新技術を活かしきれません。
モダナイゼーションは単なる技術プロジェクトではなく全社的変革プロジェクトです。技術と組織の両輪が揃って初めてAI活用が事業の中で継続的に機能し、ROIを生み出し続けます。
例えば、新システムへの刷新に合わせて組織を縦割りから横断型のチームに再編し、現場と経営層との双方向コミュニケーションを確立する、といった変革が求められます。
また現場主導のアジャイル開発文化を醸成し、小規模リリースとフィードバックの高速サイクルを回すことで、AIプロジェクトの中断リスクを下げる継続改善体制も重要です。
技術と組織の改革を同時進行させて初めて真のモダナイゼーションが実現します。AI活用が絵に描いた餅でなく実際の事業価値につながっていくのです。
ロードマップとチェックシートでわかる!自社に適したモダナイゼーション方法
モダナイゼーションを自社で推進するにあたっては、場当たり的に着手するのではなくロードマップを描くことが成功の秘訣です。さらに自社の状況に適した進め方を検討する必要があります。
多くの企業が「どこから手をつければいいかわからない」と悩んでいるのではないでしょうか。実は、リスクを抑えつつ着実に進める方法があります。
ここでは、リスクを抑えつつモダナイゼーションを進める順序と、企業タイプ別の進め方について詳しく解説していきましょう。
【モダナイゼーション・ロードマップ】リスクを抑えつつ競争力を高める順序
モダナイゼーションを実施するにあたって、まず既存システムをクラウド基盤へ移行する「クラウドリフト」から始め、次にクラウドを前提にアプリケーションやデータベースを再設計する「クラウドシフト」へ進みます。そして、最終的にAIを中枢に据えた開発・運用体制へと進化させていきます。
この順序を踏むことで、システムの大幅な停止リスクを抑えながら着実にAI時代の競争力を獲得できます。

オンプレのシステムをクラウドに載せ替えるだけで止まってしまう企業も多いのが現実です。しかし真のモダナイゼーションでは、クラウドネイティブな再構築とAI導入による業務革新まで一貫して取り組む必要があります。
ロードマップに沿って段階を追って進めれば、各段階で直面しがちな課題にも対処しやすくなります。レガシー資産との切り離し、データ移行、組織のスキル不足などの問題も計画的に解決できるでしょう。
各フェーズで必要なアクションや期待できる成果・効果、つまずきやすいポイントなど、ロードマップの全容は以下の資料からご覧いただけます!
【企業タイプ別チェックシート】自社に適したモダナイゼーションの進め方
モダナイゼーションといっても、企業タイプによって最適な進め方は異なります。現在のシステム規模・構造や業界特性、社内のリソース状況に応じて取るべきアプローチが変わってきます。
企業は大きく3つのタイプに分類されます。それぞれに適した進め方を見ていきましょう。

- レガシー刷新型(大企業に多いケース)
- スタートアップ/SaaS型(新興・中堅企業に多いケース)
- 高セキュリティ型(公共・金融などに多いケース)
どのタイプに当てはまるかわからない…という方に向けて、企業タイプがすぐに分かるチェックシートをご用意しております。ぜひ資料をダウンロードして、企業タイプをチェックしてくださいね!
レガシー刷新型(大企業に多いケース)
大規模な基幹システムを抱える企業では、一気に刷新するのではなくリスクを抑えつつ段階的に移行することが求められます。
現行システムと新システムの並行稼働期間を設け、モジュールごとに徐々にマイクロサービス化・クラウド移行を進めます。業務停止を避けながら移行する計画が重要です。
レガシー資産が多いため、移行範囲の優先順位付けも慎重に検討する必要があります。どのシステムから手を付けるか、レガシーと新システムのインターフェース設計をどうするかなど、綿密な計画が欠かせません。
スタートアップ/SaaS型(新興・中堅企業に多いケース)
成長スピードを優先する企業では、短期間で集中的に投資・実装を行うアプローチが適しています。
特にプロダクト価値に直結する領域は、優先して集中的にクラウドネイティブ/アジャイル移行を行いましょう。そのうえで、既存のレガシー環境を最小限にできるよう、クラウド前提で一気にシステム構築・拡張を行います。
優先度の高いシステムから順にモダン化し、アジャイル開発で素早くビジネス価値を生むサイクルを回すことがポイントです。
高セキュリティ型(公共・金融などに多いケース)
公共機関や金融業界のようにセキュリティや信頼性を最も重視する企業では、厳格なセキュリティ基準の順守と運用管理体制の確立が不可欠です。クラウド利用にあたってもパブリッククラウドへ移行するかを慎重に判断しましょう。
ハイブリッドクラウドやプライベートクラウドの活用、ゼロトラストネットワークの構築など、安全性を担保しつつモダナイゼーションを進める必要があります。
また、既存システムとの依存関係が複雑な場合が多いため、新旧システムの接続テストやデータ移行検証を入念に行うことが大切です。
自社に最適なモダナイゼーションでAI活用の加速を
この記事では、AI活用が進まない企業の構造的課題と、その解決策となる「IT基盤のモダナイゼーション」について解説しました。
技術的負債の蓄積、AI人材の不足、活用体制の未整備──これらの課題を解決するには、レガシーシステムからの脱却と組織変革を伴うモダナイゼーションが不可欠です。成功の鍵は、技術刷新と組織改革を同時に進めることにあります。
アイスリーデザインでは、移行方針や技術選定、リスク管理、工数やスケジュールの妥当性などの不明点の整理から、計画・実行まで伴走するパートナーとして、モダナイゼーション化からAI活用までを支援しています。
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