効率的なソフトウェア開発を実現するために、コードの統合からテスト、デプロイまでを自動化するCI/CDという手法を取り入れる企業が増えています。CI/CDのプロセスをスムーズに回していくためには、一連のプロセスの集まりであるパイプラインを適切に構築することが重要です。
この記事では、リリースまでのプロセスを自動化し、複数のツールをまとめて管理してくれるAWSのワークフローツール、AWS CodePipelineをご紹介します。AWS CodePipelineの概要や特徴、基本的な用語や料金体系まで解説しておりますので、ご参考いただければと思います。
目次
1. CI/CDパイプラインとは?各プロセスと構築の重要性
CI/CDパイプラインとは、ソフトウェア開発における継続的インテグレーション(Continuous Integration / CI)と継続的デリバリー/デプロイメント(Continous Delivery / Continous Deployment / CD)のプロセスを自動化したものです。
CI/CDパイプラインには、コードの変更がチームメンバーとの共有のデータ保管場所に保存されると、その後の本番環境までの各作業が自動的に行われていくという、一連のステップが含まれています。これにより、開発チームはコードの品質を担保しつつ、迅速にリリースを行うことができます。CI/CDパイプラインは、DevOpsという考え方やアジャイル開発という手法と組み合わせることで、開発プロセスの効率化と信頼性の向上を実現します。
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CI/CDとは?CI/CDツールを選ぶポイント7選&ツール比較! | in-Pocket インポケット
CI/CDパイプラインの各プロセス
CI/CDパイプラインには、ソフトウェア開発における一連のプロセスが含まれます。開発環境によっても多少異なりますが、主にこのような工程で開発が進められていきます。
- コード作成:開発者がアプリケーションの新機能追加や修正をするため、コードを作成・変更します。
- コードのコミット:作成したコードを共有のデータ保管場所(リポジトリ)に保存します。
- ビルド:コードをコンピュータが実行可能な形に変換します。
【変換の主な手順】
・コンパイル:ソースコードを機械語に翻訳します。
・リンク:複数のコード部品を一つにまとめます。
・パッケージング:必要なリソース(画像やデータファイルなど)を含めて一つのパッケージにします。
- テスト:ビルドしたコードが正しく動作するか確認します。
- 承認:テストに合格したコードをリリースするか決定します。
- デプロイ:承認されたコードを本番環境に反映します。
- モニタリング:デプロイ後のアプリケーションの動作を監視します。
このような一連のプロセスを頻繁に実行し、反復することで、開発効率を上げていくことができます。では、CI/CDパイプラインを構築することでどのようなメリットがあるのか、その重要性について深掘りしてみましょう。
CI/CDパイプライン構築の重要性
CI/CDパイプラインの構築は、ソフトウェア開発プロセスを効率化し、高品質な製品を迅速に提供するために、非常に重要です。高品質な製品を市場に迅速にリリースできるため、ビジネスの競争力を高めることにもつながっていきます。以下に、CI/CDパイプライン構築の重要性を高める要素を説明していきます。
- 品質の一貫性:自動化されたテスト・デプロイメントプロセスにより、人為的ミスを減らし、一貫した品質を担保できます。これにより、バグの早期発見と修正が可能になります。
- 開発速度の向上:継続的な統合と自動化されたプロセスにより、開発者はより頻繁にコードを保存・共有し、フィードバックを迅速に得ることができます。これにより、開発サイクルが短縮され、市場投入までの時間が短縮されます。
- チームの生産性向上:自動化されたプロセスにより、開発者は反復的なタスクから解放され、より価値の高い作業に集中できます。これにより、チーム全体の生産性が向上します。
- リスク管理の改善:小規模で頻繁な変更を行うことで、各デプロイメントのリスクが低減されます。問題が発生した場合も、迅速に特定し修正することが可能になります。
- コンプライアンスとセキュリティの強化:自動化されたプロセスにより、セキュリティチェックやコンプライアンス要件を一貫して適用することができます。これにより、セキュリティリスクを低減し、規制要件への準拠がしやすくなります。
適切に管理されたCI/CDパイプラインによって、開発プロセス全体を最適化することができるため、ビジネスの競争力を高めることにもつながっていきます。
2. AWS Codeシリーズ:各サービスと主な用途
AWS Codeシリーズは、ソフトウェアの開発とデプロイを効率化するためのサービス群で、アプリケーションのビルド、デプロイ、運用に関する幅広い機能を提供しています。AWS CodePipelineもCodeシリーズの一つで、サービスどうしを組み合わせることで開発プロセス全体を効率化することができます。Codeシリーズの主なサービスをピックアップし、用途をまとめてみました。
サービス名 | 主な用途 |
AWS CodeCommit | ソースコード管理 |
AWS CodeBuild | コードのビルドと自動テスト |
AWS CodeDeploy | アプリケーションの自動デプロイ |
AWS CodePipeline | CI/CDパイプラインの作成・管理 |
AWS CodeStar | 開発プロジェクトの統合管理 |
AWS CodeGuru | AIを使用したコードレビューと性能の最適化 |
AWS Codeシリーズは、ソフトウェア開発のライフサイクル全体をカバーし、開発者がコードの管理からデプロイまでをシームレスに行えるように設計されています。これらのサービスを組み合わせて使うことで、AWS上でCI/CDを実現することができます。
各サービスを組み合わせて、パイプラインを作成・管理できるのがCodePipelineの役割です。Codeシリーズのサービスだけでなく、GitHubやJenkinsなど外部サービスと連携することも可能です。
続いて、CodePipelineでどのようにパイプラインを構築していくのか見てみましょう。
3. AWS CodePipelineにおけるステージとは?
AWS CodePipelineは各プロセスを区切った単位であるステージと、具体的に実行される作業であるアクションによって構成されています。各ステージは、コードの取得、ビルド、テスト、デプロイなど、関連するアクションを含んでおり、これらのアクションはそのステージの目的を達成するために順番に、または並行して実行されます。ステージはパイプライン内で順番に実行され、一つのステージが完了すると次のステージに進む仕組みです。また、各ステージは独立しており、特定の環境や条件下で実行できるため、開発、テスト、本番環境などを分離して管理することが可能になっています。
引用:サービス別資料 | AWS クラウドサービス活用資料集([AWS Black Belt Online Seminar]AWS CodeStar & AWS CodePipeline の資料より抜粋)
CodePipelineで設定することのできる主なステージは以下の通りで、概ね前述のCI/CDパイプラインの一般的なプロセス通りにステージ名が付けられています。
- ソース
開発者の作業内容を取り込む入り口となるステージです。GitHubやAWS CodeCommitなどのリポジトリから、最新のソースコードを取得します。これにより、パイプラインの実行が開始されます。
- ビルド
取り込んだ作業内容を、コンピュータが理解できる形に変換します。また、コードの品質チェックも行います。成果物(アーティファクト)が生成され、次のステージに渡されます。
※アーティファクトとは?
パイプラインの各ステージ間で受け渡されるデータや成果物のことを指します。各ステージで作成されたアーティファクトは、次のステージの入力として使用されます。CodePipelineは自動的にアーティファクトを管理し、適切なステージに受け渡します。開発者が手動でアーティファクトを管理する必要はありません。
- 検証環境デプロイ
ビルドステージで生成されたアーティファクトを、本番環境と類似した検証環境にデプロイします。実際の運用環境に近い状態でアプリケーションの動作を確認することができます。
- テスト実行
検証環境にデプロイされたアプリケーションに対して、自動化されたテストを実行します。機能テスト、統合テスト、パフォーマンステストなど、様々な種類のテストを行い、アプリケーションの品質を確保します。
- 本番環境デプロイ
すべてのテストに合格したアプリケーションを、実際のユーザーが利用する本番環境にデプロイします。
これらのステージを外部サービスやAWSのサービスを組み合わせながら、自動的に連携させることで、開発を効率化させるCI/CDパイプラインを構築することができます。
CodePipelineにおける構成図の例として、外部サービスと連携した場合とAWS Codeシリーズと連携した場合のそれぞれのパターンをあげてみようと思います。
外部サービスとの連携
- ソースコードはGitHubで管理
- ビルドプロセスはJenkinsで実行
- デプロイ先はElastic Beanstalk
AWS Codeシリーズとの連携
- ソースコードはCodeCommitで管理
- ビルドとテストはCodeBuildで実行
- ステージング環境へのデプロイはCodeDeployで実行
- 本番環境へのデプロイもCodeDeployで実行
両パターンとも、CodePipelineが各ステージを管理し、アーティファクトの受け渡しを行います。また、必要に応じて承認ステージを挿入することも可能です。
4. AWS CodePipelineの特徴
AWS CodePipelineのメリットと言える特徴をいくつかご紹介します。ツール選定の参考にしてみてください。
- ワークフローの自動化
ソフトウェアのリリースプロセス全体を自動化し、手動作業を減らすことができます。これにより、人為的ミスを減らし、開発効率を向上させます。
- 柔軟な構成
パイプラインのステージやアクションを柔軟にカスタマイズでき、組織の開発プロセスに合わせた最適な構成にすることが可能です。
- AWSサービスとの統合
CodeCommit、CodeBuild、CodeDeployなどの他のAWSサービスと連携し、シームレスな開発環境を構築できます。
- 外部ツールとの連携
GitHub、Jenkins、Dockerなど、外部の開発ツールやサービスとも統合できます。
- 並列実行
ビルド、テスト、デプロイのアクションを並列で実行することで、パイプラインの処理速度を向上させることができます。
- 可視化による管理のしやすさ
グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)を通じて、パイプラインの状態や進行状況を視覚的に確認・管理できます。
※グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)とは?
ユーザーがコンピュータやアプリケーションと視覚的に対話するためのインターフェースです。具体的には、アイコン、ボタン、メニューなどのグラフィカルな要素を通じて、ユーザーが直感的に操作できるように設計されています。
- 手動承認プロセス
必要に応じて手動承認ステップを追加し、重要な変更に対する管理を強化することができます。
基本的にはAWSサービスとのスムーズな連携がメリットと言えますが、その裏返しとして、ベンダーロックインのリスクがある点は注意が必要です。ベンダーロックインとは1つのサービスに依存することです。CodePipelineはAWSのエコシステムに深く統合されているため、他のクラウドプロバイダーへの移行が困難になる可能性があります。このようなリスクも考慮して、最適なパイプライン構築を目指しましょう。
5. AWS CodePipelineの料金体系
最後に簡単にAWS CodePipelineの料金体系に触れておきます。無料枠も用意されているため、まずは試してみたいという方も始めやすい料金設計になっています。(あくまで簡単なまとめなので、詳細を知りたい方は公式サイトをご確認いただくことをおすすめします。)
※2024/9/3現在のレートである1ドル=146円の計算で、おおよその日本円を割り出しています。
無料枠
- 新規パイプライン作成後30日間は無料
- 毎月1つのアクティブなパイプラインが無料
※アクティブなパイプラインとは、30日以上存在し、その月に少なくとも1回実行されたもの
V1パイプライン料金
- アクティブなパイプライン1つにつき月額$1.00 (USD)(約146円)
V2パイプライン料金
- アクション実行時間1分あたり$0.002 (USD)(約0.292円)
- 毎月100分の無料枠あり
※V1パイプラインとV2パイプラインの違い
簡単に言うと、V1は基本的なパイプライン機能で構成されるもの。V2はより高度な機能(動的パラメータ、細かいトリガー制御など)を含んだもの。
追加料金
- Amazon S3でのアーティファクトの保存・アクセスに関する料金
- 他のAWSサービスや外部サービスとの連携に伴う料金
課金の特徴
- 月の途中でのプロレートはなし(月単位での課金)
- 非アクティブなパイプライン(その月に実行されなかったもの)は無料
コストを最適化するためのポイント
- 未使用のパイプラインや不要なステージを削除
- デプロイメントの最適化
- S3ストレージの使用を最小限に抑える
6. さいごに
最後までお読みいただきありがとうございます。この記事では、AWSサービスや外部サービスと組み合わせて、最適なCI/CDパイプラインを構築・管理することができるAWS CodePipelineをご紹介しました。開発環境に合わせて、柔軟なパイプラインを構築できることが特徴です。無料で使い始めることもできますので、CI/CDの導入・見直しをお考えの方はぜひ利用を検討してみてください。
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