こんにちは、in-Pocket編集部です。
今回は「Amazon Elastic Container Service」、通称「Amazon ECS」というAWS関連のサービスを深堀します。2024年現在では、300以上存在しているAWSのサービスの中でも、Amazon ECSは約10年前、2014年に発表されて、一般提供が開始されたサービスです。
そもそもこのAmazon ECSとはどういうものなのか、そして、そのコスト、メリット、デメリット、競合サービスを、非エンジニアの方にもわかりやすいよう、詳しく見ていきたいと思います。
目次
1. オーケストレーションサービス、Amazon ECSとは?
Amazon Elastic Container Service (以下、Amazon ECS) は、AWSが提供するフルマネージド型のコンテナオーケストレーションサービスです。
オーケストレーションとは、複数のシステムやサービス(※)、アプリケーションの管理と調整を自動化する機能であるのですが、その名の通り、オーケストラをイメージするとわかりやすいかと思います。オーケストラはいろんな楽器による演奏を重ね合わせて、音楽を奏でると思うのですが、オーケストレーションも同じように、色々なサービス(プロセス)を調整してアプリを公開するところまで持っていくことができるものである、と考えていただければわかりやすいかと思います。
※サービス
ここでいうサービスとは、「Amazon ECSで実行されるタスクの実行を管理する機能」です。「プロセス」とも言い換えられます。詳しくは、本記事の2章、Amazon ECSの構成要素で解説しています。
Amazon ECSは、アプリケーションのデプロイ、管理、スケーリングをシンプルに行えるよう設計されています。
基本的にアプリケーションは、複数のコンテナで構成されています。(ただし、単一のコンテナの場合もあり、コンテナの数は、具体的な要件やアーキテクチャによって変わることがあるということを念頭に置いておく必要があります。)
このコンテナというものは、アプリケーションのコードや実行に必要なすべてのライブラリや設定ファイルなどを1つのパッケージにまとめたものを指します。
アプリケーションをつくるには複数のサービス(プロセス)が必要となり、サービスの数だけコンテナを作成することが多いので、基本的にコンテナは複数存在します。
それは「1つのサービス(プロセス)に対して1つのコンテナをつくると良い」とされているという背景があるからです。(Docker公式サイトにてベストプラクティスとして掲載されています。)
Amazon ECSは、複数あるコンテナを上手くコントロールしてくれる、そういった手間を肩代わりしてくれるサービスであると考えると、非常に助かるサービスですよね。
2. Amazon ECSの構成要素
これまでに記述してきたように、Amazon ECSは、コンテナ化されたアプリケーションのデプロイ、管理、スケーリングを行うためのフルマネージドなオーケストレーションサービスです。では、このECSの主要な構成要素は以下の4つです。
1. タスク定義
タスク定義はその言葉通り、テンプレートを使用して、タスクを定義することができます。AWSの公式では、『アプリケーションのブループリント』と称されており、アプリ全体の設計図のようなものであると、認識していただければと思います。
ではどういったものが定義できるかというと、起動タイプ(Fargateを使うのか、EC2を使うのか?)、コンテナの設定、タスクサイズ、IAMロール(※)の割り当てなどを定義することができます。
※IAMロール
AWS Identity and Access Managementの略称です。AWSのほかのサービス(EC2やFargateなど)を操作する権限を付与する仕組み(役割)のことを指します。本記事の文中にはよく出てくる単語となります。
2. タスク
AWSの公式では、『タスクはクラスター内のタスク定義のインスタンス化』と称されているのですが、インスタンス化というのは少々耳なじみのない言葉ではないかと思います。タスク定義を具現化したものがタスクであるという認識をしていただくと、わかりやすいのではないでしょうか?
また、1つのタスクは、1つ以上のコンテナで構成されています。
3. サービス
AWSの公式によれば、『Amazon ECS サービスを使用すると、Amazon ECS クラスター内で、タスク定義の指定した数のインスタンスを同時に実行して維持』できるものであるようです。つまり、サービスは、ECSで実行されるタスクの実行を管理する機能です。具体的には、指定した数のタスクを維持し、ロードバランサー(複数リソースに負荷を分散させる装置)の設定やネットワーク設定を行います。これにより、アプリケーションの可用性が向上します。
4. クラスター
AWSの公式では、『Amazon ECS クラスターは、タスクまたはサービスの論理グループ』と称されています。これまた、少し難しい言葉のように感じますが、タスクやサービスが意図をもってグルーピングされた集団を指すという風に認識していただければと思います。
クラスターは、サービスに基づいてタスクを実行するためのコンテナ実行基盤です。クラスターを使用することで、異なる環境(本番環境や開発環境など)に分けることができます。
Amazon ECSを適切に設定するには、この構成要素を理解しておくことが必要です。
これらの構成要素を一連のつながりで少し説明すると、タスク定義という名の設計図を基に、それぞれがつくられており、クラスターというグループが複数存在しています。このクラスターというグループにはそれぞれタスクが入っており、サービスによってその操作が設定されています。
3. Amazon ECSの導入メリットとデメリット
ではここで一旦メリットとデメリットに焦点をあてて、整理していきましょう。
メリット
何より複数コンテナをうまく調節してくれるというメリットを持つAmazon ECS。具体的な動きとそれによって得られるメリットを5つのポイントとしてまとめました。
ポイント① 効率的なリソース活用でコスト削減
トラフィックの変動に応じてリソースを自動的に調整し、ピーク時のリソース不足やアイドルタイム(待機時間)のコストを削減します。これにより、アプリケーションのパフォーマンスを最適化しつつ、効率的なリソース利用を実現します。
ポイント② 障害が発生しても自動で復旧
コンテナやインスタンスに障害が発生した際に自動で再起動する機能により、高可用性を維持します。異常のあるコンテナを自動的に復旧し、必要な数のコンテナを確実に使用できる状態へと持っていってくれるため、サービスのダウンタイムを最小限に抑えてくれます。そのため、ユーザーエクスペリエンスの向上にも繋がります。
ポイント③ AWSサービスとスムーズな連携
Amazon RDSやAmazon S3などの他のAWSサービスと深く連携し、データストレージやデータベース管理が容易になります。これにより、全体的なシステム管理が簡略化され、開発のスピードアップが図れます。
ポイント④ 高度なセキュリティ設定が可能
AWSの高度なセキュリティ機能を利用して、データの保護とアクセス制御を厳密に行うことができます。セキュリティグループやIAMロールを使ったアクセス制御により、細かい権限設定が可能です。
ポイント⑤ 柔軟なデプロイメントオプションあり
クラスターにおける起動タイプとして、AWS FargateとAmazon EC2の2種類から選択することができます。Fargateを利用することでサーバーレス環境にデプロイ可能なほか、EC2を選択した場合には、EC2インスタンスを利用したクラスター構築も選べます。これにより、運用の自由度が高まり、様々なビジネスニーズに対応できます。
デメリット
AWSとの親和性が高いからこそ、ほかのサービスとの親和性はあまり高くなく、それは、以下のようなデメリットに直結しています。
デメリット① プラットフォーム依存
AWSのサービスに依存するため、特定のクラウドプロバイダーに縛られるリスクがあります。この依存は、将来的なマルチクラウド戦略の実施や、コスト競争力のあるプロバイダーへの移行を困難にする可能性があります。
デメリット② コスト予測の難しさ
オートスケーリングによってリソース使用が変動しやすく、予算の見積もりが難しいことがあります。これは後述のコストの側面でもお伝えしていきますが、様々なサービスを連動させて使っているため、〇〇を動かしたら、〇〇のコストまで膨らんでしまった、といったことが起こりえます。また、特に予測外のトラフィックの急増により、計画外のコストが発生するリスクがあります。
デメリット③ 学習工数がかかる
ECSのセットアップや管理には、AWSの他のサービスやインフラストラクチャに関する知識が必要です。特に新しいチームメンバーや他のクラウドプラットフォームからの移行ユーザーには、適切なトレーニングと学習期間が必要となる場合があります。
デメリット④ 複雑なネットワーク構成
セキュリティグループやIAMロールの設定は、適切に構成しないとセキュリティリスクが発生する可能性があります。また、クラスタ間の通信やデータ転送の最適化も考慮する必要があります。
デメリット⑤ データ移行に課題あり
他のプラットフォームからの移行時には、データの移行やアプリケーションの再構築が必要となり、これがプロジェクトの時間とコストに影響を与える可能性があります。これは前述のデメリット①とも連動しており、やはり一度構築してしまうとデータ移行は時間がかかってしまいます。
4. オプションに連動するコスト
Amazon ECSのコストは、選択するデプロイメントオプションによって異なります。オーケストレーションサービスであるという説明をさせていただいた通り、どのサービスを使用するかによって、そのサービスの金額に依存してしまうと考えていただければとわかりやすいかと思います。
以下は主にかかるコストの具体例です。
- Fargate: サーバーレス環境でコンテナを実行するオプション。課金は使用したCPUとメモリのリソースに基づきます。利用した分だけのコストが発生するため、未使用時には追加コストがかかりません。
- ECS on EC2: 自分でEC2インスタンスを必要に応じて提供するオプション。EC2インスタンスのタイプや数によってコストが決まり、これに加えてECSの管理コストが発生します。EC2インスタンスの料金は固定であり、インスタンスを停止しても料金が発生します。
また、Fargateと比べるとES2の方が基本的には安価であるとされています。具体的にいうと、処理負荷が安定している場合にEC2の方が安価になるとのこと。リソース使用量が少ないということがわかっている場合には、Fargateの方が安く収まることも多いようです。
- ECS Anywhere: オンプレミスや他のクラウド環境でECSを使用するオプション。オンプレミスのインフラコストと、AWSの管理サービスのコストがかかります。これにより、ハイブリッドクラウド環境での運用が可能です。
- 追加サービスコスト: ECSと連携する他のAWSサービス(例: Amazon RDS、Amazon S3など)の利用に伴うコストも考慮する必要があります。これらは、データストレージやバックアップ、データ転送などの機能を提供します。
また、これらのサービスについて、組み合わせて使うという手法もあります。
例えば、開発環境ではFargateを利用し、インフラ管理の手間を省きつつ迅速に環境を立ち上げ、本番環境ではEC2を使用して、より高いパフォーマンスやカスタマイズ性を求めていくといったように、同じアプリケーションをつくり込む中でも両方のサービスを使うという手法をとることが可能です。また、この場合さらにコスト計算が複雑になっていくのは難点です。
上記のようになかなか見積りが難しいため、つくりたいアプリケーションのイメージがあるのであれば、その内容を基に、どういったサービスで生成していければいいか、相談することが最短ではないかと思います。
5. 競合サービスとの比較
Amazon ECSの競合サービスはコンテナのオーケストレーションサービスになります。
どういった他サービスとの互換性があるのか、といった部分が大きな違いになります。
前述したように、オーケストレーションサービスのため、どんなサービスと組み合わせるかが重要なポイントのため、どんなサービスを基にアプリケーションを構築するかによって、どのオーケストレーションサービスを選ぶかを検討する必要があります。
- Kubernetes (Amazon EKS): AWSが提供するKubernetesサービスで、標準的なKubernetes(※)機能をサポート。多くのオープンソースツールとの互換性が高く、複雑なデプロイメントシナリオにも対応します。
AWSが提供しているサービスであるという点で考えていくと、Amazon ECSも同様ですが、Amazon ECSの場合、AWSのほかのサービスとの連携が容易なため、複雑な設定を避けたいユーザーにはAmazon ECSが最適です。
- Google Kubernetes Engine (GKE): Google Cloudが提供するKubernetesサービス。GoogleのAIやデータ分析ツール(Google Cloud Platformの他のサービス)との統合がスムーズで、特にビッグデータ処理や機械学習のワークロードに強みがあります。初期設定も比較的簡単で、数分でクラスターを立ち上げることも可能です。
- Azure Kubernetes Service (AKS): Microsoft Azureが提供するKubernetesサービス。Azureの他のエンタープライズ向けサービスと連携し、特にWindowsコンテナのサポートが強力です。また、Azure DevOpsやGitHub Actionsとの統合によるCI/CDパイプラインの構築が比較的簡単にできます。
以上のように各競合他社のサービスを紹介していきましたが、AWSの強みをそのうえで知ることで理解が深まるかと思います。
※Kubernetes(クバネティス/クバネテス/クーべネティス、また、K8sと略される)
KubernetesはGoogleが開発したオープンソースのコンテナオーケストレーションシステムです。2014年にオープンソースとしてリリースされており、他社からも同様に「Kebernetes」を冠したサービスが展開されています。Kubernetesはコンテナ化されたアプリケーションのデプロイ、スケーリング、管理を自動化することで、信頼性と運用効率が向上する、というものです。インフラストラクチャを抽象化し、開発者がアプリケーションに集中できる環境が提供されています。クラウドやオンプレミスなど、さまざまな環境で利用可能です。引用:Kubernetes とは(https://cloud.google.com/learn/what-is-kubernetes?hl=ja)
特徴 |
Amazon ECS |
Amazon Elastic Kubernetes Service (EKS) |
Google Kubernetes Engine (GKE) |
Azure Kubernetes Service (AKS) |
概要 |
AWS上のフルマネージドコンテナオーケストレーション |
AWS上のフルマネージドKubernetes |
GCP上のフルマネージドKubernetes |
Azure上のフルマネージドKubernetes |
管理 |
AWSがコントロールプレーンを管理 |
AWSがコントロールプレーンを管理 |
Googleがコントロールプレーンを管理 |
Azureがコントロールプレーンを管理 |
セキュリティ |
IAMによるアクセス制御 |
IAMによるアクセス制御 |
Googleのセキュリティポリシー |
Azure Active Directory統合 |
インテグレーション(統合) |
AWSサービスとのシームレスな統合 |
AWSの豊富なサービスとの統合 |
GCPのサービスとの統合が容易 |
Azureエコシステムとの統合 |
コスト |
無料、使用したEC2リソースに基づく |
管理レイヤーに月額料金が発生 |
使用したリソースに基づく |
使用したリソースに基づく |
6. AWSとの連携の強いAmazon ECSの強み、4選
これまで挙げてきた競合サービスを確認したうえで、改めてAmazon ECSにはどのような強みがあるのか、最後に、簡単に振り返っていきたいと思います。
強み① AWSエコシステムとの深い統合
Amazon S3やRDSなど、他のAWSサービスとシームレスに統合でき、インフラ全体の統一的な管理が可能です。これにより、全体的なシステムの効率性とセキュリティを高めます。
強み②サーバーレスオプション (Fargate)
AWS Fargateを組み合わせて利用することで、インフラ管理の負担を排除し、アプリケーションの開発とデプロイに集中できます。これによって、運用コストの削減とリソースの最適利用が可能となります。
強み③ シンプルなオペレーション
これまで挙げてきた競合他社はどれも、Kubernetesを利用したサービスになりますが、ECSは、複雑なKubernetesの設定に比べて、簡単に設定を開始できるため、導入の初期コストや学習コストが低いです。特に中小規模のプロジェクトやシンプルなアプリケーションに適しています。
強み④ 強力なセキュリティ
AWSのセキュリティ基準に準拠しており、包括的なデータ保護とコンプライアンス対応が可能です。また、IAMロールを使った詳細なアクセス制御が可能です。
7. 結論
Amazon ECSは、その高い柔軟性とAWSサービスとの緊密な統合により、コンテナオーケストレーションの強力なソリューションの一つです。企業はこのプラットフォームを活用することで、迅速なアプリケーションデプロイメントとスケーリングを実現し、コスト効率の向上を図ることができます。競合サービスと比較しても、特にAWSエコシステムを最大限に活用できる点で優れており、信頼性とセキュリティに優れた選択肢として多くの企業に採用されています。これからのクラウド時代において、Amazon ECSは企業の成長を支える重要な技術基盤となるでしょう。
アイスリーデザインでは、Amazon ECSの導入もお手伝いしています。色々読んでみたけど、さらに詳しい情報が知りたいという方は、ぜひ私たちにご相談ください。