2018年3月1日 UXデザイン

「行列」という顧客体験から考える、購買意欲を高める仕組み

先日、携帯キャリアが牛丼無料クーポンを配布したことで吉野屋に大行列が発生して話題になりました。インターネット上では「たった380円に2時間も並ぶなんて日本はなんて貧しい国になったんだ」というコメントが多数上がっていました。
 
確かにロジカルに考えるとそうですが、一方で「行列」というイベントにわくわくしてしまう国民性もあるのではないでしょうか。
 
誰もいない店舗よりは、行列ができていて待たされるお店の方が価値が高いと感じます。さらに「並ぶという体験」はデジタルでは体験できない価値です。「わざわざ並んでまで手に入れた価値」というのは貴重な体験価値であり「2時間待ち」「徹夜で並んだ」など厳しく苦労が多い体験であればあるほど体験ストーリーとしても価値を持ちます。行列には人気がありそう、苦労を体験価値化しようという両面の効果があるのでしょう。新しく出来た話題のお店の行列に並び食べ終わった後に「まあ思った通り味はいまいちだね」という評価をしている人をたまに見かけますが、わざわざ美味しいわけでもないいまいちな味を確認しに行列に並んでいるわけです。現代では、話題の体験価値を共有することの方が、食べることで得られる価値よりも重要であることを示しているように感じます。


 
一方で、わざわざ苦労してまで体験価値化する要素はオンライン上ではどうしても少なくなってしまいます。そこで行列の持つにぎわいをどのように来訪者に意識してもらうかのUIや機能の工夫がされてきました。例えば1990年代後半の初期のECショップでは人気の店舗かどうかを判断するのに「来店カウンター」というものがありました。(今ではピンと来ないかもしれませんが)多くのサイトのトップページに「あなたは○○人目の来訪者です」と表示されていることで、「たくさんの人が来ている人気サイトなんだ」と感じさせる効果がありました。その後、楽天などでは最近の注文情報の一部を表示して、購入者が実際たくさん訪れているにいることを見せるような工夫が始まりました。
 
ギャザリングという、同時に複数の人が購買することで安くなるという方法が流行ったこともありました。この場合何人が一緒にその商品を買い物しているかが可視化されます。まさに行列しているから私も一緒に購入してしまおう。しかも安くなる。という心理効果がありました。しかし、ギャザリングも最近ではそれほど利用されていないようです。なかなかWeb上でにぎわいを演出するのはまだまだ難しいため、レビューや口コミの数が一番無難な表現の形となっているのもまた事実です。
 
筆者が一番最近よくできていると感じるのは食べログです。サイト上に「本日行きたいと言っている人が○○人います」と表示されるようになっており、にぎわいをリアルタイム感で演出する効果が上手く出ています。最近は予約機能が使える店舗が増えているので、表示されるタイミングもちょうどよいと感じました。どうしようかなと迷っている時にポップアップ的に「行きたいと言っている人が3人います」と表示されると「早く予約しないと席が埋まってしまうかも」と思わせる効果が出ています。まるでリアルに店舗の前に居て、入るかどうかを迷っている時に次々と顧客が店内に入っていくような状況をオンラインで再現しています。
 
ストレス無く簡潔に予約や購買まで誘導するため、ログデータの結果などから改善・最適化することが多いECサイトについては、割引きだけに頼らない購買意欲を高める仕組みも求められています。オムニチャネル時代のカスタマージャーニーの中では、こうした行列に価値を感じるような人間の行動心理や体験価値をどのように取り組むかというような、新しい顧客体験への挑戦もあらためて重要になる可能性もあるのではないでしょうか。
 
 
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Kentaro Fujimoto

D4DR 代表取締役社長

1991年電気通信大学を卒業。野村総合研究所在職中の1994年からインターネットビジネスのコンサルティングをスタート。日本発のeビジネス共同実験サイトサイバービジネスパークを立ち上げる。 2002年よりコンサルティング会社D4DRの代表に就任。広くITによるイノベーション,事業戦略再構築,マーケティング戦略などの分野で調査研究,コンサルティングを展開しており,様々なスタートアップベンチャーの経営にも参画し,イノベーションの実践を推進している。現在、日経MJでコラム「奔流eビジネス」,日経BIzgateで「CMO戦略企画室」を連載中。

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