2015年12月15日

ビジネスストラテジー

企画会議で即決? 失速せずに成功まで導く"プロジェクト推進法"

in-Pocket編集部が新サービス開発に取り組む様々な企業にお邪魔し、プロダクト誕生の裏側と成功のヒントに迫るこの企画。
今回は、「小売りのミライをカタチにする」をミッションに掲げ、EC構築を原点としたオムニチャネルソリューションなど幅広く事業展開する株式会社エスキュービズム・テクノロジーさんへ。同社が目指す“産業イノベーション”の実現に向けて、どんな視点で企画・開発・運用を行っているのか?クライアントサポート部の大工さんにお話を伺いました。

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株式会社 エスキュービズム・テクノロジー
SaaS事業部 クライアントサポート部 部長
大工 峻平さん


現場の「今」を知ることが、
発想のアドバンテージに。

——リリース間もない、『ワイヤレスbeaconチャイム』という製品が好評だそうですが、製品開発の経緯を教えてもらえますか?
当社製品のひとつに、飲食店でタブレットを使って注文入力を行う『Orange Handy』というアプリがあります。リリース当初からご好評をいただき、すでに多くの店舗様でご利用いただいているのですが、飲食店運営に関するその他のシステムについてもお問い合わせいただくことが以前よりありまして。お客様が店員さんを呼ぶ際の卓上チャイムもその1つでした。そんな中あがってきたのが、「客席の卓上チャイムをアプリと連動できないか?」というアイディアでした。

従来の卓上チャイムを利用する場合、その多くが店内の壁に備え付けられた電光掲示板に呼ばれているテーブルの番号が表示されます。店舗スタッフさんは、その掲示板をチェックして、テーブルへ伺う…という運用になります。導入する際の機材も多く、コストが高くなるという課題がありました。ならば、常時スタッフさんが携帯するアプリ上に呼ばれているテーブル番号がわかれば、電光掲示板がなくとも素早く対応できるんじゃないか、と。

——そうして誕生したのが、この『ワイヤレスbeaconチャイム』(※)なんですね。確かに、ボタンを押しても、店員さんも忙しくてなかなか来てもらえない時ってあります。目で掲示板を見るのではなく、持ってるタブレットに通知がされれば、気付きやすくなりそうですね。※


※通信規格にAppleのBluetooth技術「iBeacon」を採用することで従来の電工掲示板や設置工事が不要に。電池も市販のボタン型電池を使用し、必要なのはこのチャイム単体だけ。さらに『Orange Handy』と完全連動するので…
[1]テーブルで『ワイヤレスbeaconチャイム』が押される
[2]瞬時に、全フロアスタッフのタブレット画面でベル型の呼び出しアイコンが表示される
[3]近隣スタッフが、呼び出しアイコンが表示されているテーブルに対し接客する。
上記により素早い対応が可能に。スピーディーな対応で接客クオリティも高まりそう。


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ワイヤレスbeaconチャイムのプロトタイプ(左)と完成品(右)

――まさに現場の声から生まれた合理的発想ですね。実際お客様の反応はどうですか?
実はこの『ワイヤレスbeaconチャイム』、beaconボタン部品の供給が追いつかず、現時点では少ロットリリースの段階なんです。それでもリリース直後から『Orange Handy』をご利用頂いているお客様より「価格はどのくらい?」「すぐにでもほしいんだけど!」と続々問合わせを頂いていて…!間もなくbeaconボタンが大量入荷される予定ですので、本格的な展開はこれからですが、今でもこれだけ反響があるので今後が非常に楽しみですね。

ソフトもハードも作れる。
それは、何でも出来るということ。

——現場に即した発想で顧客のハートをつかむ御社ですが、会社設立当初はEC構築などのシステム開発がメインだったそうですね。どのような経緯でハード開発まで行うようになったんでしょう?
もともと、ECサイト構築事業を行なっていた関係で、自社でもAmazonや楽天市場にネット店舗を出店し運営していました。その当時は、仕入れた商品を販売するという形態がメインでしたが、自社で商品を作ろうということになり、海外の工場でテレビやミスト扇風機などの家電を製造するまでになりました。現在は、ホールディングス制に移行し、エスキュービズム通商という事業会社で新たな製品の開発を行なっています。

当初はECサイト運用の実証が目的だったのですが、自社でハードウェアまで作れるようになりました。これは大きかったですね。ソフトウェアだけでなくハードウェアも手がけることが出来ればそれはすなわち、「何でもつくれる」ということになります。例え現状では提供できないソリューションも「無ければ、つくれば良いじゃない」という思考でものを考えられるようになっていったんです。そうして事業の視界がどんどん広がりましたね。以前は「うちでは扱えなくて…」とお断りしていたものを、「どうやったら期待に応えられるだろう?」と前向きに取り組めるようになったんですから。

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即時即決のスピード感が
イノベーションを加速する

——アイディアを次々と具現化する。そのポイントってどこにあると思いますか?
企画立案から実際に製品ができるまでの流れを極力シンプルにして、少人数ですぐにでも開発や改善をスタートさせることでしょうか。
例えば弊社の場合ですと、毎週月曜日に商品企画定例会議というものを行っていますが、このスピード感がとにかく速い。新技術や、お客様のニーズをベースに新しい企画が発表され、それが面白い・実施するべきだと判断されると、その場でGOするか否かの判断が下されます。見事GOになれば、すぐにプロトタイプ開発のフェーズに移ります。

よりスピード感を出すためにまずは極力少人数で。例えば『ワイヤレスbeaconチャイム』の場合であれば、開発部長と実装担当1名でプロトタイプを開発し、レビューでの改善点をとりまとめてCTOと改善専任のエンジニアで実装を行いました。GOするか否かの判断に迷いが生まれないのは、「日々のお客様とのコミュニケーションを通して、現場のニーズに自信があるから」。お客様のニーズを的確につかみ、それを実現するということにブレはありません。しかも会社全体に「まだ世の中にないものをつくりたい」というモチベーションが溢れているので、その想いにも直結する結果迷うことなく突き進めるんだと思います。

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顧客とともに製品を育てていく。
そのための信頼関係構築を最優先に

——的確なニーズを把握することがプロジェクト推進に直結。そのためにも毎日のお客様とのコミュニケーションや信頼関係構築がとても大切なんですね。
大事にしたいのは、「お客様と一緒になってプロダクトをブラッシュアップしていく」という姿勢。どの企業も最初から完璧なプロダクトを世に出したいと思うでしょう。でも、発売前に課題をすべて拾いきって克服するためには、それなりに時間もかかってしまいます。はじめから完璧を目指すのではなく、常に改善意識を持って「何があろうとサポートします」という心構えが大切で、その姿勢を見せることで、お客様からもきちんとした信頼を獲得することができると考えています。そんな関係構築ができていれば、お客様からのより良いアイディア提供など、製品改善のためにご協力頂けます。クライアントと開発会社という垣根を取り払い、いかに「このプロダクトで世の中を変えるか」という共通の認識を双方で持てることがポイントだと思います。

特にイノベーションと呼べるほどのプロダクトやサービスを開発する場合は、「こうあるべき」という正解はないと思っています。答えはあくまでもお客様の現場にあり、一つひとつ拾っていくしかありません。かくいう私も、初めて『Orange Handy』を導入させていただいた時、お客様の店舗へ1週間通いつめご担当者様ともコミュニケーションを密に、試行錯誤を繰り返しようやく導入ができたという経験があります。お客様との信頼関係がなければ、これほどまでにお時間をいただくことはできないと思いますし、「一緒に新しいことに取り組んでいる!」という連帯感があったからこそ実現できたんだと思います。

——今後、『ワイヤレスbeaconチャイム』を通じてどんな展開・ビジョンをお持ちですか?
このチャイムの技術は様々な用途に応用可能だと思っています。例えば“ビールおかわり専用ボタン”なんていうのも面白いかもしれません。会社の飲み会では、上司のコップの減り具合を見て、店員さんを呼ぶタイミングを図って…と、お代わりタイミングの見極めって結構難しいじゃないですか。そんな時、「ビールお代わり専用ボタン」みたいなものがあれば、面白いから押してみましょうか、と注文のハードルも低くなるんじゃないかなって。エンドユーザーにとっても便利だし店舗側の客単価向上にも一役買える。そんなアイディアがどんどん浮かんできています。

他にも、ボタンの2度押しや長押しも判別可能なので、例えば“長押ししたらお会計”なんていう用途のバリエーションも広がるんじゃないかと考えています。「こうあるべき!」っていう凝り固まった答えなんてありません。だからこそお客様、そして現場の声を聞くのが一番!それはシステム担当者さんの声かもしれないし、店舗のアルバイトさんかもしれない。そうやってお客様と一緒にコミュニケーションしながら次なる一手を考えていきたいですね。

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株式会社 エスキュービズム・テクノロジー
http://tech.s-cubism.jp/
2006年の設立当初から、ECサイトの構築事業を展開。「EC店舗で集めたマーケティングデータを実店舗でも使いたい」というニーズに対して、タブレットを使ったPOSレジ『EC-Orange POS』や飲食店向けにタブレットで注文を取ることができるシステム『Orange Handy』を開発。“ネット”の対極として“リアル”という言葉を使い、「ネットとリアルの垣根を超える」ことを社内の共通理念として、ネットから実店舗への送客を強く意識した展開を行う。同社を代表する製品に育った『EC-Orange POS』と『Orange Handy』は、タブレットPOSとオーダリングハンディ分野で、市場占有率1位となった。※2014年の富士キメラ総研調査による

in-Pocket編集部

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