アプリ開発プロジェクトを成功させるために、設計書は欠かせない存在です。しかし、いざ開発が始まると「スピード優先」で後回しにされたり、内容が不十分なまま実装が進んでしまったりすることも少なくありません。
結論から言えば、設計書は単なる「開発の指示書」ではありません。プロジェクトの迷走を防ぎ、将来的なメンテナンスコストを抑え、ビジネスの成功を担保するための「戦略的な資産」です。設計をおろそかにすることは、地図を持たずに未踏の地へ足を踏み入れるようなものであり、深刻な手戻りや予算超過を招くリスクを秘めています。
本記事では、アプリ開発における設計書の役割や「仕様書」との違いといった基本から、外部設計・内部設計で定義すべき具体的な項目、さらにはプロジェクトの質を高める作成のポイントまで徹底的に解説します。
これからアプリ開発を始める担当者の方や、開発の透明性を高めたい経営層の方は、ぜひ参考にしてみてください。
アプリ開発の設計書とは
アプリ開発における設計書は、システム開発の「青写真」に相当する重要なドキュメントです。住宅を建てる際に設計図が必須であるのと同様に、システム開発でも成功には良い設計が欠かせません。
特に大規模なプロジェクトでは、設計書の良し悪しがそのままプロジェクトの成否を左右します。経営視点で見ると、設計書はプロジェクトを可視化し、事業目標と実際の開発内容に乖離が起きないようにする「リスク管理ツール」としての役割も果たします。
仕様書との違い
「設計書」と「仕様書」は混同されがちですが、目的と記述する抽象度が異なります。設計書がシステム全体の構造や機能を高い抽象度で記述し、全体像の把握に使われるのに対し、仕様書は個々の機能の詳細な動作条件や入出力を定義したものです。
| 項目 | 設計書 | 仕様書 |
|---|---|---|
| 主な目的 | システム全体の構造や機能の全体像を把握する | 個々の機能の詳細な動作条件や入出力を定義する |
| 抽象度 | 高い(全体構造・機能概要) | 低い(詳細な振る舞い・条件) |
設計書の重要性
設計書を作成しないままプロジェクトを進めることは非常に危険です。
システム開発の成否を分ける要因は、プログラミングの技術力以前に「上流工程(要件定義・設計)」に集約されています。日経コンピュータが実施した調査によると、プロジェクトの失敗理由の筆頭は「要件定義が不十分」とされています。
実際に、要件や設計が不明確なまま開発を強行したプロジェクトの約半数が、当初の予算やスケジュールを達成できていないという厳しい統計データも存在します。
開発現場において、設計書を端折ることは「目隠しをして全速力で走る」ようなものであり、後工程で発覚したミスを修正する「手戻りコスト」は、設計段階で修正する場合の数倍から、規模によっては数十倍にまで膨れ上がる可能性があります。
設計書があれば関係者全員がゴールを共有でき、認識ズレによる手戻りや、属人化による保守の困難さを防ぐことができます。設計書は単なる技術資料にとどまりません。つまり、事業側が求める「投資対効果」を、現場が「実装可能な仕様」へと落とし込むための具体的な実行計画書であり、プロジェクトの資産価値を担保する重要な役割を担っています。
アプリ開発で設計書を作成するメリット
適切な設計書の整備は、開発現場の効率化だけでなく、経営的なコスト削減やリスク低減といった大きなメリットをもたらします。
開発がスムーズに進む
設計書によってプロジェクトが「可視化」されることで、以下の要因により開発効率が劇的に向上します。
- 意思決定の迅速化:チーム全員が同じ設計思想を共有することで、仕様確認の手間が省け、判断のスピードが向上します。
- 問題の早期発見:実装前に書面上でロジックの矛盾や不備を検知できるため、開発終盤での大幅な手戻りを防げます。
- プロジェクト状況の透明化:進捗や仕様が可視化され、経営層が適切なタイミングで予算配分やリソース調整を行えるようになります。
コミュニケーションミスを防げる
口頭でのやり取りだけに頼ると、「言った言わない」のトラブルや認識の齟齬が起きがちです。設計書を文書化・共有することで、こうしたミスを大幅に減らすことができます。
設計書は発注者(事業側)と開発チームをつなぐ共通言語となり、「要件定義で決めた内容がイメージ通りに実装されようとしているか」を確認する指標となります。これにより、開発途中での方向転換や無駄なコストを抑制できます。
開発コストの削減につながる
「設計書を作る手間やコスト」を惜しむと、結果的にその何倍もの手戻りコストが発生する可能性があります。設計段階で要件と実現方法を詰めておくことで、開発中の大幅な作り直しを防げるからです。
また、機能や工数が明確になるため精度の高い見積もりが可能となり、予算超過のリスクを減らせる点も経営上のメリットと言えるでしょう。
改善やバージョンアップがしやすくなる
アプリはリリースして終わりではなく、機能追加や不具合修正などの継続的な対応が必要です。開発時のメンバーがいなくなっても、設計書があれば後任者がシステムの仕様や構造を素早く理解でき、引き継ぎコストが下がります。
逆に設計書がない場合、ソースコードを一から解析する必要があり、作業コストが膨大になります。長期的な運用コストを抑え、サービス品質を維持するためには設計書が不可欠です。
もし、「自社に最適なシステム構成が判断できない」「どこまで詳細に設計書を作り込むべきか加減がわからない」というお悩みをお持ちであれば、早い段階でプロの視点を取り入れてみるのが、スムーズな解決への近道です。
アイスリーデザインでは、ビジネスの成功を一緒に見据えながら、使い勝手を決める「外部設計」から技術的な仕組みを作る「内部設計」まで、一歩ずつ丁寧に伴走します。専門的な知識が必要な技術選定やAIの実装設計なども、わかりやすくサポートさせていただきます。まずはお気軽にご相談ください。
アプリ開発の設計項目
設計は大きく分けて、ユーザーに見える部分を決める「外部設計」と、中身の仕組みを決める「内部設計」の2段階があります。それぞれの主な項目は以下の通りです。
- 外部設計(ユーザー・顧客向け)
- 全体設計:システム構成図、ネットワーク構成
- システム設計:機能一覧、データ連携方針
- 画面設計:ワイヤーフレーム、画面遷移図、UIデザイン
- インターフェース設計:API仕様、外部連携定義
- 運用設計:業務フロー、監視体制、障害対応手順
- 内部設計(開発者向け)
- 開発環境設計:技術スタック(言語・DB・インフラ等)
- 機能分割設計:コンポーネント構成、処理の細分化
- モジュール設計:クラス構造、アルゴリズムの詳細
- 内部データ設計:テーブル定義、ER図
外部設計(基本設計)
要件定義を受けて、ユーザーや運用担当者の視点から「システムを外から見た仕様」を定義します。クライアントと開発チームが「何を実現するか」について合意形成するための重要なフェーズです。
全体設計
システム全体の構成を俯瞰するために、「システム構成図」などを作成します。サーバー、ネットワーク、データベース、外部サービスといったコンポーネント間の関係性を可視化し、システムがどのような全体像で動くのかを定義します。
システム設計
アプリに必要な機能一覧やデータの持ち方を整理する工程です。要件定義で決まったアプリの機能要素を一覧にし、どのような機能が必要で、それらがどう連携するかを明確にします。
画面設計
ユーザーが実際に触れる画面のレイアウト(UI)や操作方法を定義します。画面一覧や画面遷移図、ワイヤーフレームなどを作成し、ユーザーにとっての使い勝手を具体化します。
インターフェース設計
他システムや外部アプリと連携するためのAPI仕様などを定義します。データの入力・出力形式や通信プロトコルを明確にし、外部とのデータ受け渡しが正しく行われるように設計します。特にBtoBシステムなど連携が多い開発では必須の項目です。
運用設計
システムリリース後の運用フローや監視体制、障害時の対応手順などをまとめます。ユーザーや運用担当者が「どのタイミングで・誰が・どんな操作を行うか」という業務フローもここで整理し、安定稼働に備えます。
内部設計
外部設計で定まった方針を踏まえ、システム内部の構造やロジックを具体的に設計する工程です。エンジニアがコーディングを行うための指示書としての役割を持ち、「どう実現するか」を技術的詳細まで落とし込みます。
開発環境設計
開発に使用するプログラミング言語、フレームワーク、OS、ミドルウェアなどの技術スタックを定義します。開発チーム全体で統一された環境で作業を進めるための前提条件となります。
機能分割設計
大きな機能を、プログラムとして実装可能な単位(モジュールや関数)まで細分化します。機能を適切に分割することで、開発の並行作業が可能になり、変更時の影響範囲も特定しやすくなります。
モジュール設計
分割された各モジュール(部品)の内部処理や構造を設計します。アルゴリズムやクラス構造などを詳細に定義し、エンジニアが迷わずコードを書けるレベルまで具体化します。
内部データ設計
データベースのテーブル定義やER図を作成し、データの物理的な構造を決定します。カラム名、データ型、制約条件などを詳細に定義し、システム内でデータが整合性を持って管理されるようにします。
| 設計区分 | 主な成果物 | ターゲット読者 |
|---|---|---|
| 外部設計 | 画面遷移図、業務フロー、機能一覧 | 発注者、ユーザー、PM |
| 内部設計 | クラス図、ER図、API定義、処理フロー | プログラマー、技術者 |
アプリ開発の設計書作成のポイント
質の高い設計書を作成し、プロジェクトで有効活用するためのポイントを紹介します。
誰が見ても理解できる文書を作成する
設計書はプロジェクトの羅針盤であり、他の人が読んで理解できる明確さが必要です。文章は簡潔にし、専門用語や略語には注釈をつけ、図表もうまく活用して視覚的に伝わる資料にしましょう。作成者本人しか読めない文書では意味がなく、誰もが理解できてこそチームの共通理解が促進されます。
表記ルールを統一する
設計書の書式や用語などの表記ルールを統一することが大切です。フォーマットがバラバラだと読み手に誤解を与えたり、情報の抜け漏れにつながります。プロジェクト標準のテンプレートを活用し、記載内容の粒度や形式を揃えることで、品質と作成効率が向上します。
予算とスケジュールを踏まえて進める
設計書には理想を詰め込みすぎず、予算や納期に見合った現実的な落とし所を示すことも重要です。実現可能性とビジネス価値のバランスを考慮し、「予算内でここまで実装し、残りは次フェーズ」といった優先順位を明示することで、経営層との期待値調整がしやすくなります。
環境設定やデータ仕様を揃える
設計書は作って終わりではなく、開発と並行して更新し、常に最新の状態(Single Source of Truth/信頼できる唯一の情報源※)を保つ必要があります。設計書が古いままで実際のコードと食い違っていると、後から参加したメンバーが誤った理解をしてしまい、バグや混乱の原因になります。
※Single Source of Truth(SSOT)とは?
複数の場所に情報が散らばるのを防ぎ、「ここを見れば必ず正しい最新情報がある」という場所を一つに定める考え方です。
アプリ開発での設計書の作成方法
アプリ開発の設計は、通常、要件定義から始まり、全体像、外部、内部へと段階的に詳細化していきます。一度にすべてを決めるのではなく、大きな枠組みから詳細な仕組みへと段階的に具体化していくのが一般的です。基本的には以下のステップで進められます。
- 要件定義:何を作るか(目的・機能)を決定する
- 全体設計:システムの土台(構成・インフラ)を固める
- 外部設計:ユーザーから見た動き(画面・操作)を決める
- 内部設計:中身の作り方(プログラム・データ構造)を練る
- 運用・保守設計:リリース後の守り方(運用手順)を整える
要件定義
開発プロジェクトの最上流で作成される文書です。アプリに必要な機能要件(搭載すべき機能)と非機能要件(性能・セキュリティなど)を整理し、具体的な内容や制約条件を定めます。発注者のビジネス上の要求を開発者と合意し、後続の設計工程の土台を作ることが目的です。
全体設計
詳細に入り込む前に、システム全体の構成を明確にします。システム構成図を用いて、サーバー、データベース、ネットワークなどの関係性を可視化します。これにより、プロジェクトに関わる全員がシステムの全体像を把握でき、「何をどう作るか」の方向性を統一できます。
外部設計
要件定義を受けて、ユーザー視点での仕様を具体化します。画面のレイアウト(UI)、画面遷移、業務フロー図などを通じて、ユーザーがどのようにシステムを利用するかを定義します。クライアントと開発チームが完成イメージを共有し、認識のズレをなくすための重要なフェーズです。
内部設計
外部設計で定まった仕様を、エンジニア向けに技術的な詳細へ落とし込みます。プログラムのモジュール分割、データベースのテーブル定義、APIの詳細仕様などを記述します。ここでの記述がエンジニアへの直接的な指示書となり、実際のコーディング作業のベースとなります。
運用・保守設計
開発期間中だけでなく、リリース後の運用・保守フェーズも見据えた設計を行います。将来の機能追加や担当者変更に備え、メンテナンスしやすい構造にし、運用マニュアルや障害対応手順も整理します。これにより、システムが長期的な資産として価値を維持できるようになります。
アイスリーデザインでは、設計の方向性のすり合わせや技術選定のアドバイスなど、具体的なドキュメント作成の前段階からサポートが可能です。後戻りのできない開発に入る前に、まずは設計の進め方について一緒にお話ししてみませんか?
設計書作成を外部委託する際のポイント
開発を外部パートナーに依頼する場合、設計書の取り扱いがプロジェクトの品質とコストを左右します。丸投げにするのではなく、以下のポイントを押さえて出来る限りコントロールしましょう。
外注する範囲を明確にして伝える
設計工程のどこまでを自社で担い、どこからを外部へ依頼するのか、その境界線をあらかじめ確定させておきましょう。
たとえば「要件定義は自社で完結させ、基本設計以降を外注する」といった役割分担を明確にすれば、開発費用の適切なコントロールが可能になるだけでなく、責任の所在もはっきりします。また、自社でビジネスの骨子をあらかじめ固めておくアプローチは、無駄なコンサルティング費用の発生を抑え、外注コストを削減する効果も期待できるでしょう。
仕様変更のルールを事前に決めておく
開発プロジェクトにおいて仕様変更は避けられないものですが、その際の対応フローを確立しておくことが重要です。変更内容を速やかに設計書へ反映させる運用や、追加費用の算出基準についてあらかじめ合意しておきましょう。こうしたルール作りが、最終的なスケジュールの遅延や予算超過といったトラブルを未然に防ぐ鍵となります。
複数社から見積もりを集める
共通の要件定義書や設計案を提示した上で、複数の開発会社から提案を募るようにしましょう。同じ条件下で比較・検討することで、各社の提示金額や提案内容の妥当性が客観的に判断できるようになります。結果として、自社の目的や予算に最も合致する最適なパートナーを選定しやすくなるはずです。
実績やサポート体制を確認する
検討中の外注先が、十分な設計能力を有しているかを慎重に見極めましょう。開発会社の中には設計書の作成リソースが不足しているケースもあるため、過去の制作実績や納品物に設計書が含まれるかの確認が欠かせません。質の高い設計書をドキュメントとして残せる会社は、リリース後の保守や将来的な引き継ぎの面でも高い信頼を置くことができます。
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まとめ
アプリ開発において、設計書はプロジェクトの成功を支える「地図」のような存在です。設計をおろそかにしたまま進めてしまうと、後から予期せぬトラブルや大きな手戻りが発生し、結果的に多くのコストや時間を失うことになりかねません。
ビジネスの目的と技術的な仕組みをしっかり結びつけ、チーム全員が自信を持って開発に取り組める「納得感のある設計」を作り上げることが大切です。
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