2018年11月2日 ビジネス

MaaSがもたらす「移動」という体験価値の大転換

先日トヨタとソフトバンクが提携し、新会社「モネテクノロジーズ」を設立したことが話題になりました。この会社の目玉事業がe-Paletteというコンテナのような自動運転車をベースに、その中身をまるでスマホのアプリのように販売店舗や飲食店、オフィスや工場など様々なものに入れ替えて都市のどこでも移動しながら営業することを可能にするというコンセプトのサービスです。トヨタとしても「自動車を作る会社」から「移動をサービス化する会社」への挑戦となります。
 
こうした移動にまつわる領域ではまさに自動運転に限らない大変革が進行中です。その中でも注目なサービス概念がMaaS(モビリティアズアサービス)です。これまで交通サービスは電車やタクシー、バス、自転車など交通手段毎にルートや運賃が決まっており、利用者は自分で判断して利用していました。しかし、スマホを活用することで移動したい人達のデータが集まるようになれば、移動の最適化が可能になります。まさにユーザーの移動したいというデータを起点に移動手段をサービス化してしまおうという考え方です。
 

 
すでにヘルシンキで提供されているサービスでは月額499ユーロで鉄道やバス、カーシェア、レンタル自転車、タクシー(5km以内)が乗り放題になり、目的地を入力することで最適な移動手段がおすすめされるようになっています。このサービスの導入によりそれまで40%あった自家用車の利用が20%になり、48%だった公共交通の利用が74%になるという結果になりました。つまり、みんなが勝手にばらばら移動するよりも、データを収集し最適化するともっと移動は効率的になり、コストも下がるということです。
 
目的地がわかれば自動車を一人一人が運転するよりも、ライドシェアで相乗りする方が効率的です。そして、やがてそれは自動運転になるのです。駐車場もいらなくなればもっと有効に使える都市のスペースも増えるでしょう。空いたスペースに昼間だけコーヒーを販売する移動型のカフェが来て、夜には移動型のラーメン屋台が自動運転で来て営業すればさらに効率的なビジネスが可能になります。まさにトヨタが実現しようとしているサービスはそうした世界なのです。そしてその移動の最適化の鍵は通信データであり、生活者が持っているスマホです。そう考えるとトヨタとソフトバンクが何故手を組むのかも理解できるかもしれません。
 

 
そしてもうひとつ移動がスマホと同じような世界になる可能性があるのが定額制です。通信費が高い時代はインターネットの利用に制約がありました。それが孫さんのおかげでADSLが普及し高速インターネットが当たり前になるとインターネットで買い物を楽しむような人が激増しました。そして携帯電話の料金もそうでした。インターネットを使うパケット代が高い時代はパケット代を気にして大容量のデータを扱うことを控える人が多かったです。でもパケット定額で利用しやすくなるとみんなでインターネットから音楽をダウンロードしたり、動画をみたり、スマホの利用の仕方は劇的に変わりました。それと同じようなことが移動で起きるのです。移動が定額制になると街の中どこにでもいつでも行けるようになります。移動に対する意識のハードルもかなり下がるでしょう。ちょっと隣町まで気軽に移動する人も増えるでしょう。移動型の新しいサービスのアイデアがどんどん増えていくことでしょう。
 
このように通信で起きたようなことが今後移動の世界で起こるのです。移動という体験価値の大転換の時代を睨んだ今回のトヨタとソフトバンクのような動きがこれから次々と起こるはずです。まさに移動の世界のビッグバンが始まったばかりです。

Kentaro Fujimoto

D4DR 代表取締役社長

1991年電気通信大学を卒業。野村総合研究所在職中の1994年からインターネットビジネスのコンサルティングをスタート。日本発のeビジネス共同実験サイトサイバービジネスパークを立ち上げる。 2002年よりコンサルティング会社D4DRの代表に就任。広くITによるイノベーション,事業戦略再構築,マーケティング戦略などの分野で調査研究,コンサルティングを展開しており,様々なスタートアップベンチャーの経営にも参画し,イノベーションの実践を推進している。現在、日経MJでコラム「奔流eビジネス」,日経BIzgateで「CMO戦略企画室」を連載中。

この記事をシェアする