ダイバーシティ(多様性)はここのところ女性活用や性的マイノリティー対応として語られることが多いですが,「多様性に機能としてどう対応していくのか?」という論点が今後重要になっていきます。モビリティやデジタルテクノロジーの進化も進む中,DX志向的に都市機能デザインの高度化とセットで議論していく必要があります。
例えばトイレのデザインは今大きな課題になっています。これまでのような男性用トイレ,女性用トイレという分け方ではLGBTQの人達が存在感を増したことで,使う人によって受け止め方が大きく異なりトラブルになることがあります。さらにダイバーシティという意味では視覚障害の人,車椅子の人,オストミーの人などハンディキャッパーの多様性も大事になります。これまでハンディキャッパーの課題はアクセシビリティやバリアフリーなどという言葉で語られユニバーサルデザインという大きな概念で括られてきましたが,ダイバーシティ時代には多くの人の最大公約数的なユニバーサルデザインだけでなく,よりきめ細かいニーズに応えるための工夫も必要になってくると考えられます。実際のところ現在トイレは授乳や化粧直し,着替え,おむつ替えなど様々な用途にも使われています。一部の人は休憩,昼食などに使う人もいるようで長時間占有もオフィスなどでは問題になっています。これらを解決する方法として「多目的トイレ」として様々な目的に対応したトイレを設置する場所も増えていますが,多目的トイレはスペースも必要であり,コストもかさむため従来のトイレを多目的トイレに置き換えればよいかと言えば,必ずしもそうとはいかない状況があります。
そこでDX志向で全体の最適化を図ることから再設計するとどうなるでしょう。あらためて広く機能として考えるとトイレは生活機能の一部です。トイレを使いたいのでカフェに行く場合ももちろんありますが,カフェは休憩したり,お茶したり,仕事したりする場所でもあります。でも仕事するにはWi-Fiや電源が欲しいという理由で最近はコワーキングスペースも増えています。しかしテレワークの増加とともにオンライン会議などで人に聞かれたくない会話をしたいニーズが高まり,小型のプライベートブースも増えています。このように考えると現在生活する上での都市機能としては以下のような機能を我々は求めています。
①オープンな占有スペース(イス,机)
②プライベート個室機能(防音)
③プライベート会議機能(防音)
④水まわり軽機能(手洗い,シンク)
⑤水まわり重機能(シャワー,サウナ,風呂など)
⑥排泄機能(トイレ)
⑦調理機能(キッチン)
⑧睡眠機能(防音,ベッド)
これまでカフェが①,③,④でホテルが②,③,④,⑤,⑥,⑧,漫画喫茶は②,④,⑤,⑥,⑧の機能を持っていました。
誰もがスマホを持っていて,センサーでリソースの状態をリアルタイムで把握できる時代であるとすると,自分がこの①から⑧のどれかの機能を使いたい場合,一番近い場所を検索して予約することなども可能になります。つまり今持っている機能をバラバラにアンバンドルし,リソースをトータルでマネジメントすることで効率化されます。すでにホテルやコワーキングスペースなどはスマホでこうしたサービスが利用することが可能になりつつあります。さらにこの①から⑧が自動運転車に実装されれば向こうから自分が今いる場所まで向かって来てくれることも可能になります。つまり,純粋にトイレの機能を使いたければトイレの機能を最短で手に入れる。着替えをしたいのであればトイレでなくても②や③の機能があれば十分であり,その機能を最短で手に入れることができるようになろうとしているのです。ここには大きな新しいビジネスチャンスもあるでしょう。
都市全体でDXとして捉えればこのように個別に必要な機能を必要な人が必要な時にオンデマンドで使え,さらに多くの人とシェアすることでリソースとしても最適化されコストを抑えることも可能になる時代になろうとしています。男性,女性という議論ではなくこれからのダイバーシティでは個人個人のより細かいニーズに都市全体のリソースを固定化せず,柔軟でかつ機動的に機能を使えるようにすることで対応するという発想も必要になるでしょう。そしてそれこそがDX志向であり,これまでのユニバーサルデザインからのイノベーションなのだと思います。
in-Pocketを運営する株式会社アイスリーデザインが取り組むDX支援の詳細はこちらをご覧ください!!