2021年4月13日 トレンド

ゴーストレストラン

デリバリーアプリ時代の申し子「ゴーストレストラン」の増加

コロナ禍で飲食業界は激動の嵐のまっただ中にいます。テレワークの普及と並んで不可逆な変化を遂げたのがまさに外食産業であるとも言えるでしょう。それまで当たり前であったお店の中で仲間達と賑やかに楽しく食事を取る風景がもっとも悪者扱いされてしまったのです。店内で食べることに対して様々な制約が生まれたため,多くの店舗でデリバリーが当たり前になりました。きっとコロナが収束してもほとんどの店舗ではデリバリーを止めることはないのだろうと思います。今マクドナルドの前にはたくさんのデリバリーの配達員がまるで駅前ロータリーのタクシーの運転手さん達のようにたむろして待っています。こんな光景もコロナ禍で生まれたニューノーマルな日常風景と言えるでしょう。

デリバリーが増えたことで飲食業では面白い現象が起きています。それがゴーストレストランと呼ばれるリアルに店舗を持っていない飲食店の増加です。例えば夜バーだった店が昼間に「カレー専門店」としてデリバリーだけの店舗を運営する形態もあれば,シェアキッチンと呼ばれるキッチンだけを部分的に借りて運営する形態もあります。このようにリアルな実態が無いデリバリー専門店はゴーストレストランと呼ばれますがコロナ禍で日本全国では万単位で店舗が激増しています。もちろんデリバリー需要が増えたことと既存飲食店の危機回避策というのも理由ではありますが,何よりも生活者が簡単に選んで注文できるデリバリープラットフォームの普及と激しい競争も大きな理由です。先行したウーバーイーツや出前館だけでなく新興の様々なサービス事業者が参入したことで,新規大量出店ラッシュになりました。まるで楽天市場が登場してたくさんのネットショップが新規に乱立した頃のようです。これまでは飲食店は立地や口コミが何より重要でした。しかし,ゴーストレストランは飲食店には不向きな立地でも調理さえできればよいので,勝負はアプリ上でどれだけ上位に表示されてメニューの写真が美味しそうかになります。そのため,一目で何料理かわかるような店名がよくなるので,「洋食屋」ではなく「オムライス専門店」「クリームコロッケ専門店」の方がよくなるのです。

実際何でも作れる居酒屋が25ブランドのゴ−ストレストランを運営している例が以下の写真です。これを見ていただくともう一メニュー一ブランドくらいの勢いであることがわかると思いますが,検索エンジンで上位表示されるノウハウと同じようにアプリで選ばれるための「SEO」の試行錯誤が今様々行われている状況と言えるでしょう。

図表 25ブランドのゴーストレストランを運営している居酒屋の例

※写真はスペースマーケット代表重松氏のTwitterより許可をいただき転載しています

このように飲食店でこれまで重要な要素であった,立地,集客,おもてなし,調理人,食材などはバンドルされた価値でしたが,これからはアンバンドルしてバラバラにすることが可能になります。そうした流れはコロナ禍で一気に加速し今後ますます様々な形態の飲食店が増加することが予想されます。例えば調理人を自宅に派遣するサービスもでてきていますが,スター調理人になれば日本中のお店を回って料理ツアーをするようなポップアップシェフも増えることでしょう。「シェフが毎日ひとつのお店にいる」ということももはや常識ではなくなるかもしれません。デリバリーが充実すれば,優秀なソムリエが自分の今日のセレクトしたワインにあう料理だけを様々な店舗からデリバリ−してワインと料理を楽しむような店舗だって登場するかもしれません。飲食店にとっては危機的な状況が続いていますが,こうした新しい可能性への挑戦できるタイミングと前向きに捉えることもできるかもしれません。

 

 

Kentaro Fujimoto

D4DR 代表取締役社長

1991年電気通信大学を卒業。野村総合研究所在職中の1994年からインターネットビジネスのコンサルティングをスタート。日本発のeビジネス共同実験サイトサイバービジネスパークを立ち上げる。 2002年よりコンサルティング会社D4DRの代表に就任。広くITによるイノベーション,事業戦略再構築,マーケティング戦略などの分野で調査研究,コンサルティングを展開しており,様々なスタートアップベンチャーの経営にも参画し,イノベーションの実践を推進している。現在、日経MJでコラム「奔流eビジネス」,日経BIzgateで「CMO戦略企画室」を連載中。

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