2019年9月6日

トレンド

インターネットを支配する「エモさ」

D4DR 代表取締役社長

最近、「エモい」という言葉がよく使われています。エモーショナルから来ている言葉でまさに感情に訴えるようなコンテンツを見た時に「これエモいよねー」などと使われています。インスタグラムやTwitterなどのソーシャルメディアでは毎日のようにエモい写真や文章が拡散しています。人々はエモさに強く反応するので「可愛い猫の写真」は「猫という生き物の生物学的優位性」を語るコンテンツの100倍の速さで拡散しています。
 
 
 
一方、ビジネスの世界でもここのところのビッグデータブームから、ますます強まっているデータ至上主義の反動から、ロジカルで論理的に偏り過ぎた経営を感性や感覚を活用して意志決定するべきだという考えも非常に高まっています。シンギュラリティと呼ばれるAIが高度に発展する段階が来ることが予測されてから、論理的思考はAIが人間にとって変わるので無いかという考え方も高まり、むしろ人間の役割が感性や感覚的な判断や創造にシフトするという価値観が急速に広まっているとも言えるでしょう。しかし、人間が論理的思考に基づいて判断する人間という前提で政治やビジネスをしてきた民主主義と資本主義の世界ではこの「エモさ」が非常に難しい課題を我々に提示しているのが現在です。
 
 

 
 
インターネットが普及し始めた時、人類はついに知性の集合体を手に入れたと知識人達は歓喜しました。しかし、実際に起きたことは知性の何百倍のスピードと量で拡散していくエモいコンテンツ達でした。現在のインターネットの最大の課題はこのエモさと言って言いかも知れません。猫の写真のように「可愛い」や「笑える」などだけなら特に問題は無いかもしれませんが、より強い「怨み」「嫉妬」「怒り」「悲しみ」などの感情は非常に強いパワーで拡散する感情です。こうした感情をビジネスや政治に利用することが日常的になってきており、イギリスのEU離脱やトランプ大統領の誕生など世界を大きく変え始めていることは周知の事実です。「炎上マーケティング」や「フェイクニュース」のように場合によっては事実と異なるコンテンツでもその拡散力だけを利用して人々の行動を操作したいと思う人達がいることはとても怖い状況と言えるでしょう。
 
 
 
マスメディアがコミュニケーションの中心だった時代はエモい情報を客寄せとして使いつつも、ロジカルな論理の部分もかならず存在させることで自らバランスを保っていましたが、現在のインターネットの場合はただひたすらエモさがパワーを持って拡散しています。さらに多くのソーシャルメディアや広告は自分の興味関心に近い人々やコンテンツがより選択的に表示されるアルゴリズムを採用しているため、ますます自分と同じ怒りを持っている人を引き寄せますし、嫉妬の共感パワーを増幅させています。
 
 

 
 
我々はこうした時代において広い関心を持つことや、異なる価値観の人と対話をするなど新しい時代のコミュニケーションリテラシー教育が必要になっています。情報そのものが簡単に手に入る今、学校教育などでもそうした情報接触態度そのもののセンスなどをどのように身に付けていくかがとても大事と言えます。そして、フェイクニュースを排除する仕組みや広告の表示の仕組みなどテクノロジーで解決できる部分については積極的に業界全体としての課題解決に取り組むことはもはや義務と言ってもよい段階に来ているかも知れません。

1993年にインターネットが広がる夢を持った我々第一世代にとっては、この状況を改善することはもはや使命と言えるかもしれません。
 
 

Kentaro Fujimoto

D4DR 代表取締役社長

1991年電気通信大学を卒業。野村総合研究所在職中の1994年からインターネットビジネスのコンサルティングをスタート。日本発のeビジネス共同実験サイトサイバービジネスパークを立ち上げる。 2002年よりコンサルティング会社D4DRの代表に就任。広くITによるイノベーション,事業戦略再構築,マーケティング戦略などの分野で調査研究,コンサルティングを展開しており,様々なスタートアップベンチャーの経営にも参画し,イノベーションの実践を推進している。現在、日経MJでコラム「奔流eビジネス」,日経BIzgateで「CMO戦略企画室」を連載中。

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