2019年1月11日 UXデザイン

株式会社QUICKイノベーション本部が目指す「最大のイノベーション」とは?

1971年創業。世界中から株式、債券、為替、企業情報などのデータやニュースを集め、独自の分析・評価を行っている日本経済新聞社グループの株式会社QUICK。証券会社や金融機関から個人投資家まで、幅広いユーザーが同社をパートナーとし、日々の経済活動を行なっています。そんな歴史ある企業がどのようにイノベーションという新しい領域に臨んでいるのか、イノベーション本部の副本部長・辺見重明氏、イノベーション本部R&Dセンター部長・渡辺徳生氏、同R&Dセンターマネージャー・武井昭仁氏にお話を伺いました。
 
 

イノベーション本部の目的はイノベーションだけではない


 
 
──イノベーション本部の成り立ちについて教えてください。

「2017年に新設された部署なのですが、そのルーツは2013年に遡ります。各事業部門に分散していたイノベーションパワーをまとめたのがイノベーション本部です。イノベーション本部には3つのG(グループ)と1つのセンターがあります」

──その中で辺見さんはインキュベートGをリードし、渡辺さんと武井さんはR&Dセンターに所属されているわけですね。

「既存事業やサービスとさまざまな技術やソリューションを組み合わせて発見するのがR&Dセンターです。必ずしも金融というQUICKの既存領域にとらわれず、役に立つ新しいことを生み出すのがインキュベートGです。時には『証券・金融市場を支える情報インフラ』との理念すら外し、よりアイディアを発散させるために戦略ドリブンで進めています」

──なるほど。イノベーション本部全体としてはどれくらいの規模の組織なのでしょうか?

「社員が22名おり、それ以外のスタッフも含めれば専任で30名弱の組織となっています。QUICKは約650人の会社ですので、それなりの割合の社員がイノベーション本部で働いているということになります」
 

 
──それほどの人数をイノベーション本部に投入する狙いはなんでしょう?

「イノベーションの社会実装は、もはや目標ではなく企業活動の大前提です。できるだけ多くの社員が成長・成熟への活動に触れ、自ら行動を起こす。私たちは“触媒”と呼んでいるのですが、イノベーティブな空気が社内に醸成され、社員同士や事業シナジーが活性化して行くことがミッションの1つだと考えています」
 
 

あえて社外から攻めてスピード感を出す。新規事業推進のコツとは


 
 
──“イノベーション”と一口に言っても、どの領域から取り組むのか、どのように取り組むかは千差万別だと思います。QUICKのイノベーション本部としてはどこから手をつけ始めたのでしょうか?

「漠然と“さあイノベーションを始めよう”という大きな命題があったわけではなく、既存部門ではやりきれていなかった“良いネタ”があったので、そのネタに対してイノベーション本部が時間と人をかけてモノやコトを作るスタイルでスタートしました。そしてIT戦略を徹底的に追求するため、それらのネタの中でもエンジニアリング領域から攻めて行きました」

──とはいえ、これまで既存部門でやりきれていなかった領域です。いくら専任でスタッフを配置したところで、動かして行くのは大変だと思います。どのような体制で動き出したのでしょうか?

「大きなポイントとしては“パートナーとの共創”が挙げられますね。社内の人間だけでイノベーションに取り組むのは人数面でも時間面でも難しかったこともあり、ビジネスアイデアをパートナーに伝え、外側から人を巻き込む形で動きを作っていきました」
 

 
──具体的にはどのような企業とお仕事されているのでしょうか?

「現在は16社とお付き合いしています。それぞれの課題をプロジェクト化し、実証実験するためのチームをいくつかの企業さんと組織しているのですが、そこにはスタートアップ企業もいれば、不動産屋さん、メーカーさんなどもいて、各社の事業内容はさまざまです」

──それらの外部企業に共通項などはありますか? 声をかける基準などあれば教えてください。

「やはりエンジニアリングの領域ですので『絶対的なスキルを持っている』ということと『やる気がある』ということ。この2つだけですね。ただ、傾向としては、イノベーションセクションや、特定の技術を持っている方々とお付き合いしているという流れはあります。やはりどの企業さんでも『イノベーションをやるべし』という話になっていて、そこで悩んでいる方が多い印象がありますね。そういった方々と協業して、お互いに成果を出せるようにコラボレートしているのが、今のイノベーション本部の仕事のかたちです」
 

 
──QUICKは日本経済新聞社グループということで、既存の金融ビジネスが強大です。そういう事業領域で、イノベーションに取り組むための工夫は?

「既存領域であるレッドオーシャンに関しては『マーケットがあり、競合相手もいて、どれくらいシェアを取れば儲かるか』が言えますが、ブルーオーシャンのように市場がないところに関してはそれが言えないわけですよね。そこで私たちイノベーション本部では、ブルーオーシャンとレッドオーシャンの間に『ピンクオーシャン』と呼ぶ領域を設定しています。新規事業と既存事業の中間であるピンクオーシャンにおいて、インキュベートGがオープンイノベーション型創業を行い、R&Dセンターが新技術と既存ニーズを組み合わせて従来市場をリプレイスしていくフェーズを請負うことで、ピンクオーシャンからブルーオーシャンへ橋渡ししていく事業展開を進めて行くという流れを作りました。

──KPIなどは設定されているのでしょうか?

本日受けているこのインタビューもまさにKPIの一つです。社外とのコラボレーションの一つ一つを組んで行くこともそうです。成果そのものよりもプロセスや活動量を重視していて、社内外に対して行動して行くこと-発信していくこと自体が重要だと考えています。
 
 

いつでも・どこでも・だれとでもイノベーションが生み出されること

──イノベーション本部が発足して約2年が経ちますが、感じられている手応えはありますか?

「象徴的だったのは、弊社の主力商品を担当している部長から相談を持ちかけられた際『君たちと話すとネタが出てきそうな感じがして、話しかける相手としてすごく良い』と言われたことですね。発足してから半年くらいは『あの人たちは何やっているんだろう?』という目で見られているのを感じていましたが、このように実業の壁打ちをしてくれたりすると、評価されているのを感じますね。大抵“イノベーション”というと経営陣の独り相撲になってしまうことも少なくないと思うのですが、現場の実質的なところを担っている人たちにもインスピレーションを与えられているというのはとても嬉しいことですね。それにはこの『共創スペース』も貢献していると思います」
 

 
──「共創スペース日本橋」と名付けられたQUICKの新しいオフィスのことでしょうか?

「はい。Engagement・Synergy・ProductivityをQUICKが目指す働き方として定め、新しくオフィス空間を作り、7月にモノづくりセクションが移転しました。これによってガラッと会社の雰囲気が変わったと思います。以前のオフィスはいかにも“事務エリア”という感じで“我がテリトリー”があったのですが、自由に場所を選択しながら、クリエイティブな成果を促す働き方を支えるActivity Based Workingとの考え方からフリーアドレス制を導入し、その結果、部署や仕事の枠を超えて様々な人と接触し、新しい業務シナジーや新規顧客ニーズが生まれ始めています。このオープンな空間で社員間のコミュニケーションはかなり取りやすくなりました」

──目に見えて大きな改善があったのですね。

「テクノロジーの進歩でどこでも仕事ができるようになった今、何のために会社に来るのかというと、それはコミュニケーションのためではないでしょうか。そういう視点から見ても、閉鎖的な場所がひとつもないこのオフィスは理にかなっていると思います」
 

 
「共創スペースにはSPRINT BOXと名付けた空間内空間もあって、社内デザインスプリントも行なっています。当初は1日2時間半を3日間かけて理解~発散まで行くものの、リソースの都合もあって、それ以上なかなか進められなかったのですが、現在はプロトタイプ作りや自前の実証実験まで進められるようになってきました。」
 

<実際に行われたデザインスプリントの様子>
 
──今後の展望について伺いたいのですが、まず昨今のイノベーションを象徴するバズワードでもある「AI」や「ブロックチェーン」といったテクノロジーへの関わり方はどのようにお考えですか?

「『AIやブロックチェーンは方法であって、目的ではない』ということを一番大切にしています。我々も金融データをベースに、AIを利用して非構造化データを解釈し、意味ある変化を抜き出したり、いち早く速報したり、サマリーを作ったりするということには取り組んでいますが、あくまで目的ベースです。ブロックチェーンに関してもどう使うのかを軸に研究していますね。現実世界のマーケットデータとの結節は大きなテーマです」
 

 
──ありがとうございます。では最後に、イノベーション本部としての目標を聞かせていただけますか?

「セクションとしてのミッションは『イノベーションの社会実装』にほかなりませんが、『イノベーション本部という機能がなくても、いつでも・どこでも・だれとでもイノベーションが持続する』状態にするということですね。それが“文化が根付いた”ということだと思うのです。私たちがこれまでと違うことをやるよりも、皆がどんどん新しいことをやるようにするのが最大のイノベーションだと思います」
 

 

in-Pocket編集部

i3DESIGN

Techベンチャーのi3DESIGNが本メディアのために結成した編集チーム。広告代理店出身の元ライターはじめデザイナーやエンジニア、リサーチャーなど個性的なメンバーが、今一番ポケットにしのばせたいトピックをお届けします。

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