2018年12月19日

ナレッジ

視野狭窄。車買取サービスにみる劣悪カスタマーエクスペリエンス

N.Ohnaga

「今日、ここでなんとか契約してもらえないでしょうか?じゃないと僕、会社に戻れないんです…今日まだ1件もとれてなくて…」

これは、先日僕が自分の車を乗り換える際に、車買取りサービスの営業マンから言われたひとことです。まだこんな会社あるんですね、CMも流すような大手で安心と思っていただけに本当にびっくりしました。今回は、兎にも角にもサービスが劣悪すぎて、二度とこの会社には頼まない!と強く憤りを感じた車買取サービスについてUXの観点からに紹介したいと思います。

まずは体験の全体像から。簡単にジャーニーマップに落とすとこんな感じです。買い取り業者を探し始めてから、車両の引渡しまでもう終始ネガティブです。感情的にポジティブに振れるのは、この苦痛から逃れられる、終わった。という安堵感や解放感だけですね。
 
 

 
 
時系列に詳しくみていきましょう。
 
1)業者を探す:サイトをみても違いがわからいない。
 

 
NO1実績、高価買取、スピード査定。どれも訴求が同じでまったく違いがわかりません。結局は4,5社のサイトをみてわかったのは、「正式な見積は現物をみてから。」という当たり前すぎるプロセスくらい。このターゲティング広告やSEOに相当お金と時間かけてるんだろうなーって思うと、ほんと頭が下がる思いです。
 
 
2)業者を選ぶ:無神経なアポイント競争。
 

結局「もう高く買ってくれればどこでもいいや。」ってことで見積一括サイトへ。電話番号が入力必須項目になっているので、申し込み後の営業電話攻勢にある程度の覚悟しながらも、精一杯の抵抗として備考欄に「電話ではなく、メールでご連絡をお願いします」と記載し送信。5分後から鳴り始める電話。

営業「いま近くまで来てるんでお宅に伺ってもいいですか?」
「え?でももう18時だし、明日以降でいいですけど・・・。」
営業「いや近いんでいきますよ、19時半にはいけますので」
「全然近くないやん・・・(心の声)」

ここから2日間の間に5社程度から電話攻撃を受け、結局は消去法で電話ではなく、メールでコンタクトしてきた1社にまずは見積をお願いすることに。
 
 
3)業者を決める:なんでそうなる?居座り型アプローチ
我が家にやってきた20代の爽やかなスーツ姿の営業マン。手際よく車両点検し、タブレット価格査定調査をしてると思っていたのも束の間。

営業「で、いくらなら売ってくれますか?」
撲「え?それがわからないから、見積してもらってるんですけど...査定額はいくらですか?(なんか嫌な予感)」
営業「いや、見積だしちゃうと、この後来た業者がそれより高い見積出しちゃうんですよね。なので、当社と契約してくれるという前提で査定額をお知らせしたいんです。」
撲「でも、ホームページに無料スピード査定、無料見積って書いてありましたけど、それって契約前提でないと見積できないってことなの?」
営業「うーーん、すいません、そのあたりは微妙で(汗)。HPはマーケティングチームがやっていることなので。今、精一杯のお見積り出しますので、他社との比較はやめて是非、当社で買い取らせてください。」

こんな問答すること1時間。結局最後は、自分の営業成績やら歩合の話までされて、何もかもどうでもよくなり売却依頼書にサイン。この人断っても結局別の会社の営業と、同じようなやりとりすると思うと、そっちの方が面倒というのが決めた理由です。
 
 
4)契約後のプロセス:連携ゼロ。情報共有皆無の営業とアシスタント。
 

ここまでくると一事が万事、推して知るべしで営業から紹介された契約書類まわりの受け渡しを担当するとう営業アシスタントも頓珍漢。営業と約束した期日に書類は届かないわ、車両引渡し日も営業から共有されてないという始末。とどめはすべての手続きが完了したあとに、お客様満足度アンケートに協力してくれ、と。(アンケートでリピートや他者紹介の意向を確認することが彼女の重大な仕事らしい)。もう開いた口がふさがりません。
 
スイマセン、半分愚痴みたいなブログになってしまいました。
今回、僕自身が体験した買取サービスの例は、少し特殊なケースかもしれませんが、マーケ、営業、アフターフォローの各部門がそれぞれの理屈やKPIで役割を果たすことに終始するあまり、著しく顧客体験を損なってしまっている事って実は非常に多いんですよね。その場合往々にして、組織的な視野狭窄に陥っていて、顧客がサービス全体でどんな体験をしているのかわからないまま、売上を維持するために日々焼き畑農業的なマーケティング活動をしているわけです。

人口が減少し、市場全体の成長が見込めない分野の事業成功のカギはいかに優れた顧客体験を提供し、ファンを創るかにかかっています。そしてその時必要なのは、インサイドアウト(企業都合の視点)から、アウトサイドイン(顧客体験の視点)への視点の転換です。顧客満足度、リピート率、顧客紹介率に課題をもつ会社は、ぜひ組織横断で顧客体験をカスタマージャーニーマップとして可視化するところからはじめてはいかがでしょう。

Nobuyuki Ohnaga

N.Ohnaga

株式会社アイスリーデザイン取締役、株式会社bridge代表、サービスデザイナー。日本にペルソナを導入した先駆的企業であるmct社のコンサルタントとして人間中心イノベーション手法を活用した商品開発、サービスコンセプトの構築、イノベーション人材育成といったプロジェクトをリード。2017年1月bridge.Incを設立。多様な業種、組織の200を超えるデザインプロジェクトの実践経験をノウハウとして体系化し、スタートアップや中小企業のイノベーションを支援する。2017年8月より株式会社アイスリーデザインに役員として参画。

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