2018年11月28日 ビジネス

定額ストリーミング時代における「ボヘミアン・ラプソディ」の価値

今話題の映画「ボヘミアン・ラプソディ」は70年代、80年代に大人気となったロックバンド「クイーン」を描いた作品です。まさに80年代に青春時代を過ごした我々の世代にはノスタルジーもあいまって、こぞって映画館に押し寄せる事態となっています。しかし、映画館にはリアルタイムではクイーンを知らない若い世代も含めた幅広い層も足を運んでいることがヒットに繋がっていると見られます。映画はボーカルのフレディマーキュリーの自伝的ストーリーを軸に最後伝説のチャリティコンサート「ライブエイド」の再現で盛り上がります。この映画のヒットの分析としては現在の音楽ビジネスの価値シフトも影響しているのではと考えています。
 
音楽ビジネスの価値としては以下の4つがあると思います。

①アーティストそのものの価値
 アーティストが大好きでアーティストにも投資したいという価値

②曲の価値
 曲が好き。かつてはシングルレコード、最近はダウンロードで曲を買うという価値

③アルバムというパッケージされた価値
 長らくLPを買う、CDを買うということで一番メインだった価値

④ライブパフォーマンスの価値
 クラブやライブ会場で音楽を体感する、最近はフェスという形態が人気の価値

 
しかし、ここ数年定額ストリーミングが全盛になり、米国ではダウンロードで曲を購入することも劇的に低下している状況になり、②や③の単体での価値が非常に低下していると言えます。一方でAKB商法に代表されるように、自分の大好きなアーティストにはとことんお金を払い、中世のパトロンのように自分がアーティストを支えるんだという意識を持つような①の価値はとても高まっていると言えます。そして当然、そのアーティストのライブには通い詰めるため④の価値も大きい存在です。

 

 

一方でアーティストには興味を持たない人でもDJによるライブ空間の体験やフェスのようにたくさんのアーティストが参加するお祭りのような非日常体験にも価値を感じたくさんの人が集まる状況が続いています。④だけの価値を求めている人も増えていると言えるでしょう。つまり、音楽ビジネスの世界は①と④の価値がとても高まっているのです。そうした中、強い個性やドラマチックな生き方をしたアーティストであるフレディの人生と、あのたくさんのアーティストが参加したライブエイドでNo1と言われたパフォーマンスを示したクイーンのステージを映画の題材にしたことで、クイーンをあまり知らない世代でも十分に楽しめる映画になったのではないでしょうか。

 
また映画館の方も近年は大音量上映や、声援や大声を出してもよいという応援上映など、体験価値を最大限に楽しむ上映スタイルも増えてきました。そう考えると「再現されたライブを映画館で見る」という新しいジャンルをこの映画は確立したかもしれません。伝説のライブのウッドストックやビートルズ武道館なども映画として再現することも今後は出てくるかもしれません。

 
長らくレコードという大量生産の工業製品のビジネスだった音楽ビジネスはオンラインの定額配信がベースになることで、中世の音楽家達のように自分のパトロンと演奏会が再び大事になりつつあります。まさにオンライン配信というテクノロジーが音楽ビジネスを原点回帰させたと言えるでしょう。音楽を大量生産のモノにしてしまったことの方が実は一時的な暫定処置だったと考える方が自然なのでしょう。未来は懐かしさの中にあるのかもしれません。

Kentaro Fujimoto

D4DR 代表取締役社長

1991年電気通信大学を卒業。野村総合研究所在職中の1994年からインターネットビジネスのコンサルティングをスタート。日本発のeビジネス共同実験サイトサイバービジネスパークを立ち上げる。 2002年よりコンサルティング会社D4DRの代表に就任。広くITによるイノベーション,事業戦略再構築,マーケティング戦略などの分野で調査研究,コンサルティングを展開しており,様々なスタートアップベンチャーの経営にも参画し,イノベーションの実践を推進している。現在、日経MJでコラム「奔流eビジネス」,日経BIzgateで「CMO戦略企画室」を連載中。

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