2018年10月5日

トレンド

働き方改革と師匠モデル

D4DR 代表取締役社長

昨年から、日本企業へ働き方改革が一気に浸透しつつあります。横並びが大好きな日本企業らしいとも言えるでしょうが、一方で長時間労働のわりに労働生産性がなかなか上がらないことへの反省という側面もあるように思います。
 
私はこの働き方改革で、現状で予想されている以上に、長らく日本企業を支えてきた色々な仕組みが変革を迫られることになるのではないかと考えています。中でもOJT(オンザジョブトレーニング)に依存してきた若手の育成は大きな転機になるはずです。
 
そもそも、研修などの教育は業務時間の中で全て行う必要がありますが、これまでは残業を含めた時間の中で仕事を覚える訓練を行うことが多かったように思います。このことにより、人による習熟度の差も膨大な残業時間の中で吸収することができたと言えます。しかしその状況から、新しい価値観、つまり残業をしない前提の限られた時間の中で教育と業務を両立させていくことは、大変難しいバランス感覚が求められます。

 

企業からすると、これまでのように新卒を採用してたくさんの残業をさせながら一人前の戦力に育てていくという方法が通用しなくなります。新卒から会社色に染めながら愛社精神を植え付け出世競争をさせていくというモデルが一気に崩壊することになることも予想されます。そうすると、最初から限られた時間の中でしっかり成果を出せるスキルを身に付けた中途の即戦力としての採用がどんどん重視されます。
 
こうなると困るのは若手です。どのように自分のスキルを身に付けていけばよいのでしょうか?社会人になっても会社の用意する研修だけでは一人前のスキルは身につかないのです。そうすると、大学時代の過ごし方も変わります。自分の時間を使った自己研鑽がより大事になり、ビジネスに役立つ実務を、学生時代に身に付ける動きも増えるはずです。一方で仕事に求められるスキルも大きく変化しています。これまでのようにスクールのような習い事に通うということだけでは厳しい。これから求められる自分の生き方やキャリアの方向性、身に付けるべきスキルは何かなどの指針を与えてくれる人の方がより重要となります。
 
これまで、企業の中ではメンター制度という形で先輩社員を後輩の相談相手に当てるような施策が行われてきました。しかし、限られた業務時間の中でメンターとなった先輩も成果を出さなければいけません。さらに、人材もどんどん流動化して転職も増えています。これまでのような、長期の雇用関係がある中での先輩後輩関係への依存体制を敷き続けるのも、厳しい状況となってきました。
 

この中で、私は今後のひとつの方向性として「師匠モデル」があると考えています。例えるならスターウォーズのジェダイマスターとパダワンのように、師匠として自分の生き方を導いてくれるような存在です。しかし現代社会では絶対的なジェダイマスターを探すのは大変です。複数の師匠を見つけ、自分の専門性を磨いていくために教えを請うていくことが、今後の社会人のキャリア形成にとって重要なのです。
 
今ネットでは、有名人による有料のサロンが流行っています。自分のキャリアを見据え、リスペクトする人達のサロンコミュニティに参加する人が増えているのです。ある意味これは師匠モデルと呼べるのではと思っています。ソーシャルメディアでフォローするだけのオープンな関係ではなく、より密度の濃い寺子屋に通うようなクローズドな関係が構築されているのです。ビジネスとしてサロンを運営する師匠の方も、ソーシャルメディアでの会話より何倍も濃い指導をしてくれます。
 
今後はたくさんの弟子を抱えるプロ師匠という職業が増えることになるでしょう。こうしたプロ師匠は会社という枠を越えてどのように生きていくべきかの指針を与える人として重要な仕事になっていくと思っています。
 

Kentaro Fujimoto

D4DR 代表取締役社長

1991年電気通信大学を卒業。野村総合研究所在職中の1994年からインターネットビジネスのコンサルティングをスタート。日本発のeビジネス共同実験サイトサイバービジネスパークを立ち上げる。 2002年よりコンサルティング会社D4DRの代表に就任。広くITによるイノベーション,事業戦略再構築,マーケティング戦略などの分野で調査研究,コンサルティングを展開しており,様々なスタートアップベンチャーの経営にも参画し,イノベーションの実践を推進している。現在、日経MJでコラム「奔流eビジネス」,日経BIzgateで「CMO戦略企画室」を連載中。

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