最近は、オープンイノベーションという言葉を耳にしない日がないほどに、既存の企業の枠を越えたイノベーションを求める声がますます高まってきています。そこに呼応するかのように、セミナーやイベント、研究会、異業種交流会が、毎日のように様々な場所で開催されています。私もそうした場に多く参加しています。
様々なイベントに参加する中で、私は「よそ行き感」を頻繁に感じ取るようになりました。わざわざそこに集まったはずなのに、折角お会いした方とよそ行きのコミュニケーションに終始してしまうのです。代表取締役の方々の「いやあ我が社は全然ダメなんですよ」といった謙遜から会話が始まる場面も多く見られます。
家でも会社でもない場、いわゆるサードプレイスの存在は大事ではありますが、ビジネスのためのオープンイノベーションで求められているのは、自社の主体性を持った上での議論です。そのためには、サードプレイスではない一方で自分の場でもある空間をいかに作るか、という「場のデザイン」がとても大事になります。
その中で私が思い起こすことがひとつあります。それは「縁側」というデザインについてです。
もともと、日本家屋の縁側は絶妙なデザインです。玄関ではなく、家屋の側面にある、ただの窓ではない、少しせり出し広がる空間。その縁側から訪れ、縁側の縁に腰掛けて話し始める状態は、言うなれば非公式訪問です。家にあがりこんでいるわけではない、でも、ちょっと腰掛けて話をはじめる。お茶やお団子が出てきて、お裾分けもしてしまうような気軽な関係。非公式だからこそ、本音のコミュニケーションができます。これが、玄関からの訪問となると正式な客人となり、ある程度公式ばったコミュニケーションをとらざるを得ません。
日本家屋は、地域コミュニティを気軽に成立させやすい縁側というデザインを発明していたのです。私なりにこの縁側という言葉を英訳すると「Social Edge」。まさに社会の接点と言えるのではないでしょうか。
現在の企業はこの縁側 = Social Edgeをどのように作るかが大事なのではないでしょうか?実際にこうしたSocial Edgeづくりに挑戦している代表的な例として、ヤフー株式会社がオフィスの移転時にはじめたLODGE(https://lodge.yahoo.co.jp)という社内スペースがあります。一度行ってみると、まさに現代の縁側そのものだと感じるでしょう。外部の人間も登録すれば自由に入れますし、自由に仕事ができるスペースが、受付と企業の執務スペースの間に存在しているのです。開業して最初の頃はいずれ有料にするかもしれないと聞いていましたが、そこからそれなりに時間が経ち、依然として無料となっています。それはきっと、ヤフー自身もその価値を感じているからでしょう。私の知り合いからも、LODGEでの偶然の出会いから仕事が始まることが実際にあったという話を聞きます。
昨今の企業のオフィスは、セキュリティを重視するあまり外部の人間と中の人間を隔てる方向で設計されている場合がほとんどです。しかし、設計次第では中間のスペースを持ちつつ、セキュリティを担保していくことも可能です。
かつては霞ヶ関の中央官庁も出入りは自由でした。官僚のところに色々な方が出入りし、「ちょっと暇だから来ました~」という言葉をきっかけに官僚と話す中で、政策のアイデアが生まれることもたくさんあったのです。現在の霞ヶ関はセキュリティがとても厳しいですが、いつか官民が気軽に交流できる、ヤフーのような役所のデザインに是非挑戦して欲しいと思っています。
最近日本に上陸したWeWorkも縁側のようなデザインです。従来の個人事業主に近い人が多かったコワーキングスペースと異なり、利用者の中心が大企業となる設計をしています。大企業の支店機能といったようなクローズドな空間を内包しつつも、セミパブリックな縁側の要素を持つスペースがそのすぐ隣に多数存在しています。突然パブリックスペースで知ることもなかった会社のセミナーが始まり、何気なくその話を聞いてしまう瞬間もあるでしょう。そのような、偶然の出会いの設計がたくさん仕込まれています。
オープンイノベーションは、「よそ行き」ではなく、あくまで自分達の仕事をしながらも「偶然の出会い」が多数生まれる、縁側のようなデザインがとても重要だと思っています。最先端のICTを活用することでセキュリティを守っていくことが必須だとしても、そうした「偶然の出会い」への仕掛けは、多く生み出していけるのではないでしょうか。
D4DR 代表取締役社長