2018年4月27日

UI/UXデザイン

スナックというサードプレイスコミュニティ - なぜ夜に、女性起業家達はスナックのママになるのか

D4DR 代表取締役社長

最近スナックがちょっとしたブームです。スナックとは、バーカウンターに立つ「ママ」「マスター」と呼ばれる店主およびスタッフが、会話とお酒を提供する場所です。かつての昭和なスナックと言えば場末の飲み屋街で紫色などのネオンの看板のお店で、おやじ達が夜な夜な通っているイメージでした。最近はお洒落なバー風のスナックが徐々に増えています。さらに最近の新しい傾向として、起業家、特に女性起業家がテンポラリに店を借りて始めるポップアップスナックが増えているのです。
 
こうしたスナック増加の背景は何でしょう。最近カフェやコワーキングスペースなどの自宅と職場以外の場所、「サードプレイス」と呼ばれる場所が急増しています。そういう意味ではスナックもサードプレイスです。家でも無い、職場でも無い、むしろ家には帰りたくないおやじ達が会社から家に帰る途中に寄り道をするつかの間の憩いの場所として、スナックは機能していたと言えるでしょう。
 
平成になり、スターバックスコーヒーなどのコーヒーショップがサードプレイスの価値を掲げ、日本全国にあっという間に広がりました。現代ではおやじ達に限らず多くの人がそうしたサードプレイスを求めていることがじわじわ明らかになる中で、あらためて元祖サードプレイスであるスナックが注目を浴びています。
 

コーヒーショップでは一緒に来ている顧客同士がコミュニケーションをとることもほぼありません。店員とのコミュニケーションも一部に限定されています。しかしスナックでは、ママとだけでなく、顧客同士のコミュニケーションも発生します。アルコールメインでクローズドな場所ということもあり、よりリラックスし本音が語れる場所でもあります。初めて会う顧客同士が仲良くなる、一種のコミュニティスペースと言えます。その中でのファシリテーターとして活躍するママの役割も見直されています。
 
ポップアップスナックが増えてきた大きな要因としては、シェアリングエコノミーとしてバーの空いている時間など場所の利用が容易になってきたことと、ソーシャルメディアなどで自分の繋がった人達に開催の告知が容易になったことなどが挙げられます。
 

女性二人の起業家が設立した株式会社ヒキダシは事業の中心を「ミドルシニアのセカンドキャリア支援」としています。ミドルシニアが気軽に本音を語る場がなかなか見つからないという背景があり、麻布十番のBarが空いている時間を活用して「スナックひきだし」を始めました。

最初は月1回、夜のみでスタートしましたが、昼にもやって欲しいという声を受け、現在までに昼30回、夜10回、のべ300人以上が参加するまでになっています。さらに24時間スナックというスナックのフェス化にまで挑戦。一時間一コマで時間貸しし、マジックショーやバリスタによるコーヒー飲み比べなどが行われ、多彩な人々の交流が生まれました。運営している岡田慶子氏は「スナックは“人”ありきのオープンイノベーション拠点です。新たな人や情報が交差する場であり、新たな出会い(チャレンジの機会)を創出できます。こういったスナックを増やしたいし、世界を繋ぎたいと思います。 」と語っています。
 
銀座のバー『アイラ島』にポップアップママとして活躍する小林利恵子氏は、個人で起業した人の集まりのNPO「IC協会」の理事長も務めています。

小林氏は「今後、副業や独立する人が増えていくと、発注側も発注される側もますます人で選んで仕事をするケースも増えていくでしょう。企業の規模に関係なく、惚れ込んだ人と一緒に仕事をしたいんじゃないかなと思います。また会いたいと思えるママの能力は個人起業家の能力そのものかもしれません。」と語っています。
 
彼女達は昼はビジネスの世界で戦いながらも、夜は「スナックのママ」という立場に身を置き、女性の強みであるコミュニケーション能力をさらに活かしています。人と人のハブになり、そこに心地よさを見いだして、さらに色々な人々が集まってくるのでしょう。その場に生み出されていく普段の仕事や企業での立場も越えた、個人としての顧客同士のマッチングが発生しています。そこでのリラックスした会話から生まれる共感とアイディアに、オフィスでは生まれ得ない、新しいイノベーションの可能性が秘められているように思うのです。

Kentaro Fujimoto

D4DR 代表取締役社長

1991年電気通信大学を卒業。野村総合研究所在職中の1994年からインターネットビジネスのコンサルティングをスタート。日本発のeビジネス共同実験サイトサイバービジネスパークを立ち上げる。 2002年よりコンサルティング会社D4DRの代表に就任。広くITによるイノベーション,事業戦略再構築,マーケティング戦略などの分野で調査研究,コンサルティングを展開しており,様々なスタートアップベンチャーの経営にも参画し,イノベーションの実践を推進している。現在、日経MJでコラム「奔流eビジネス」,日経BIzgateで「CMO戦略企画室」を連載中。

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