ZOZOTOWNが10月1日から送料自由というサービスを始めたことで話題になっている。商品を購入するとき、送料を自発的に入力してもらうのだ。プルダウンの選択で、100円から1500円までの金額を、自由に入力することができ、何も入力しない場合は400円となる。これまでは税込みで4999円以上の金額を購入すると送料無料、4998円以下の場合は送料は399円となっていた。ZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイ前澤代表取締役のTwitterによると、初日のデータでは宅配会社に支払う金額を上回った注文は全体の0.2%で、ほとんどの人は400円以下の金額を選んだという。
宅配のトランザクションが増加し、宅配業界全体が深刻な状況の中で、人々に物流コストに意識をもたせるという意味では、とても面白い試みだと言えるだろう。送料無料で価格が表示されていると、購入者が送料というもの自体を意識しなくなる。物流が社会課題になりつつあるのであれば、その解決のために料金を支払うことで、改善のために使って欲しいという意思を込めた、ある意味寄附行為にも似た方法となっている。その意識のある人がたとえ少数だけだったとしても、送料無料とは違う効果があると考えているのだろう。
このように利用者が支払う金額を決める「Pay As You Wish」と呼ばれる方式は、海外でも日本でもすでに存在している。ただし、リアルな店舗では顧客が実際に店主などの目の前で金額を支払うので、さすがに妥当な金額を払わなければいけない、という抑止力が働くと考えられている。欧米ではチップという制度も残っており、富裕層はそれなりの金額を支払うという慣習もある。これらは貧富の格差がある社会においては、「noblesse oblige」という貴族の義務という思想の延長と言えるのかもしれない。
しかし非対面のネットにおいてのこの仕組みはこれまでの「Pay As You Wish」方式ではなくむしろ寄附型のクラウドファンディングに近いのだろう。自分の応援するブランドやサービスが考える社会課題解決のためにお金を払う。結果的に自分がそのブランドからよりよいサービスを受けられるようになる。ネットの場合はそれらを可視化することが可能であり、人々のパワーをより実感できる。一部の金持ちではなく、普通の顧客たちの力が様々な課題を解決できることが実感できればますますその力は拡大するだろう。今後は商品やサービスを販売するだけでなく、より企業のブランドやサービスが目指したい社会を実現するために広く顧客を参加させるアプローチは増えていくだろう。そしてそうした顧客との関係性を構築できることこそが新しい「ブランド価値」になるのだと考える。一方的な広告メッセージで意識されるブランドではなく、コミュニティとコミュニケーションし、ただのファンではなくステークホルダーになってもらうまで関係性を強めることで構築されたブランドは、強く、簡単には壊れることはない。
D4DR 代表取締役社長