こんにちはi3DESIGN しばです。
先日(2016.04.26)の東京品川にて開催されたGoogle Developers Summit Tokyo 2016(以下「GDS」) に参加してきました。GDS自体は2日連続で開催されていて、今回は後半のProgressive Web Appsのテーマのセッションに参加してきました。GDSについては、他のブログでも技術的なTopicsについて諸々言及されているので、ここでは「ビジネスマンむけのGDS」という観点でレポートしたいと思います。
目次
Progressive Web Appsのコンセプトは、よりいいユーザーエクスペリエンス
Progressive Web Apps(以下「PWA」)のコンセプトをGoogleが公表したのは2015年になるのでもう1年近く立ちますが、当社の主力製品GOMOBILE flamingoを利用して、スマホサイトを鬼のように開発をしている我々でも、実務面においてはまだPWAで開発することはなく、もう少し先かなと考えていましたが時代は既に進んでいたようです。
PWAについては既に色々なサイトでも紹介をされているので、ここでは説明を割愛させていただきますが、改めてGoogleがPWAを推進した背景から理解し直すと、次のように説明されています。
何故開発者はアプリを必要としているのか?
・パフォーマンス
・オフライン時の利用
・定期的なバッググラウンドでの処理
・通知機能
・センサー機能の利用
・OS独自の機能の利用
赤字の所が特にPWAでは補完されている機能になりますが、開発者は、これらのポイントの観点から、ウェブではなくネイティブアプリを選択するという理解が議論の出発点です。
セッションの中でも発表されていたのは、2012年、情報紙「Wired」はスマホにおけるアプリの台頭を見てウェブは死んだと大体的に宣言し、これが2016年になると「Web very much alive in 2016」とウェブが、いまだ重要な存在であると再宣言し直し、アプリ対ウェブという議論は定期的に行われてきました。
今回のGDSで一番興味深かったのは、開発者向けのサミットでありながらも技術的な話だけではなく、PWAに対応した企業の実際の効果が発表されていたことでした。
事例1.インドのECサイト「Flipkart」
セッションの中の発表によれば以下のように魅力的な効果が報告されていました。
・3x time spent on site, from 1 miniute to 3.5 minutes
・Seeing 40% visitors return week over week
事例2.リクルート社の「SUUMO」
この導入効果については正直驚きました。SUUMOが実際にPWAで提供している機能は大きく3つあるとのことです。
・ホームスクリーンへのアイコン追加機能
・オフラインキャッシュ機能
・通知機能
また対応している其々の機能についても効果測定がされていました。
ホームスクリーンへのアイコン追加では、追加されたアイコンからのサイト軌道時にPWAで独自の画面を表示するようにし、この機能を利用していないユーザーを100%とした場合にPWA利用者はCVR118%の成果が出ていると。
オフラインキャッシュ機能についてもナレッジを蓄積していて、PWAによるキャッシュ機能利用時は、0.8475ms -> 0.2019msと表示速度を4倍とのことでした。勿論SUUMOは不動産物件サイトなので、物件の更新性がサイトの優位性において極めて大事というので、これを妨げないレベルでキャッシュ機能を利用しているという点についても、PWAの導入によるナレッジの蓄積が進んでいるのが素晴らしいですね。
両方の実際の効果を聞いてもPWAは、未来のウェブサイトではなく、既に先進的な企業で効果を上げ始めているという発表は非常に驚きです。
HTTPSの対応は大事
また今回、印象的だったのはキーノートスピーチの次のTopicsがセキュリティーであったことです。「セキュリティー」というと、技術的なTopicsでビジネスサイドからは関係ないとも思われるが、そうではないんです。
ポイントだけ書くと、”ウェブサイトのHTTPS対応は、何かを守るという意味合いだけでなく、何か便利なAPIを使うために必要なもの”ということです。
このTopicsについてもSUUMOの取組は非常に示唆に富んでいました。先にも言及したようにSUUMOは既に色んなシーンにおいてPWAの対応を進めているが、その背景ではPWAに対応する上で必須となるSSL対応にもしっかり取り組んでいます。
具体的には、以下のような内容になっています。
・Local StorageのHTTP <-> HTTPS同期 #「お気に入り」「履歴」系の機能で利用
・被リンクのURLをHTTPSに変更
・HSTS(HTTP Strict Transport Security)対応
ビジネスサイドといいながらやや技術的な言葉になって恐縮ですが、簡単にいうとエンジニアが「HTTPSの対応が大事です!」と進言してきた時に、「セキュリティー対応だろ?」という理解ではなく、今、起きているウェブシーンにおいて新しい技術トレンドに対応する為には必要なんだと理解をし直して、かつその為には、それなりに既存サイトの改修含めて対応の費用も必要なんだと理解するのが正解です。
ちなみに当社のウェブサイト(www.i3design.jp)は、既にHTTP/2にまで対応をしていますが、最初、httpsに対応で云々と社内のエンジニアが言ってた際に、私もその意味が理解できてなかったと今更ながらに理解しました(笑)
いい通知機能とは何か?
最近のGDSの重要なキーワードの一つに「ユーザーエクスペリエンス(UX)」を上げることができます。UXと言われても、この時代誰しもがUXが大事と言っているので、そんなの当たり前のことを言っていると思われるかもしれないですが、PWAも、その主要な機能一つの通知機能もUXという観点から理解をしなおすと、その意味がより深く理解できます。
スマホにおいて通知機能が重要な役割を果たしていて、通知を行いたい為だけにネイティブアプリ対応をしている企業も少なくありません。そんなスマホの通知機能をGoogleは次のように提唱しています。
“User Re-engagement”
Engagementという言葉はソーシャルマーケティングのエリアにおいても非常に多く利用されているキーワードですが、GoogleはこれをNotificationという機能においてユーザーを再度エンゲージさせるものと定義しています。
GDSのセッションで、そもそも「いい通知機能とは何か?」について次のような言及がされました。
“Don't annoy your user” - ユーザーを煩わせない
“it's timely” - いいタイミングで通知する
“it's precise” - 正確な情報を通知する
“it's relevant” - 意義ある内容を通知する
これだけだとよく分からないと思うので補足すると、ネイティブ・アプリは素晴らしい機能を提供できますが、すべてのサイトビジターがアプリをダウンロードをする訳ではないし、目指すべき世界はWebの世界においてもオフライン環境下であっても、ユーザーが必要な情報を通知でき、かつユーザーの利便性を上げるのがPWAの通知機能という訳です。
SUUMOの対応事例からこれをブレークダウンしてみると次のようになります。SUUMOでは、情報の鮮度が高いうちに不動産物件情報をカスタマーにお届けすることがカスタマー体験向上へつながるという考えのもとから、アプリとは別にPWAの通知機能も利用しているとのことです。
これにより過去は新着物件が更新された際の連絡をメール配信だったのを、ウェブ通知を利用して1人1人にあった提供を実現しより即時性を上げることに成功していると、ここまでならネイティブアプリの通知機能と同じかなと思うのですが、ポイントはその次で。
SUUMOが目指している未来は、「単純に通知するだけじゃなくて通知を受け取った際には対象の物件を既にローカルにロードさせ、通知から物件一覧、詳細の閲覧を、ユーザーにストレスなく見せる」ようにすることらしいです。
つまり、ウェブの世界であったとしてもユーザーが必要な情報をいち早くユーザーにあった情報を提供(アプリのダウンロードをしなくても)し、かつ受け取った情報の閲覧時の快適さをもPWAをフル活用して実現させるのがGoogleのいうUXになります。
日本での普及の鍵はSafari対応
ここまで説明してきたように改めてPWAの将来性は期待大ではあるのですが、実際のビジネスシーンでの利用は幾つかのハードがあります。
PWA普及の最大のキャスティングボードを持つのはiPhoneです。
下の図は、各ブラウザとPWAの肝となるService Worker(ローカルのProxy機能)の対応状況ですが、MSのEdgeは対応していますがSafariはサポートしていません。特に日本においてはiPhoneが6割強のシェアがあるめ実際のビジネスシーンにおいてこれを最大化するためには、SafariがPWAをサポートしてくれない限り効果は限定的です。
参考:https://speakerdeck.com/surma/instant-loading
正確には、今回の事例でも出てきたflipkart.comやSUUMOのPWA版は、iPhoneのSafariだけじゃなく、iPhoneのChromeでも閲覧しても動かないのです。
またビジネス的に考えれば、SafariがPWAをサポートするのはAppleの戦略から考えてありえないのではないかと考えていたのですが、今回のGDSに参加してみて、改めてウェブの歴史、元々のSafariのコンセプト、グローバルでのAndroidの現在のシェア状況等々から考えると、起こり得る未来ではないかと考えを改め直しています。
次に鍵となるのは、PWAは文字通りProgressive(段階的に前進する)だということです。
今回のGDSでSUUMOの取組み状況を聞いて改めて凄いなと思ったのは、PWAに限らず、HTTPS対応、場合によってはAMPと、一連のGoogleの技術進化をキャッチアップして、それらのノウハウを積極的に蓄積していることでした。先のPWAによる通知から物件一覧の表示方法含めて、実際には途中で、Chromeの進化に合わせて実装方式を変更したりと、よりいいUXを実現するための改善を実施しているという点でした。
通常の企業の場合、何か新しいことに対応する場合に、その投資対効果はどうなんだ、もしくは仕様がProgressiveに変わっていくのであれば、日本の企業の殆どは枯れた技術のほうが安全だと敬遠されがちです。
実際に、今回のGDSでも、Chrome はいずれGoogle Cloud Messaging (GCM)経由ではなく、Web Push API を間もなく使えるようになると言及されていて、PUSH配信サービス(GOMOBILE Zebra)を提供している当社からしても、おっと早く言ってくれよ、という感があるくらいGoogleは色々変更を加えてきます。
問題はこれらの変更を、「プラス」と取るか「マイナス」と取るかです。これはPWAに限らずですが、技術の進化の速度は加速度的に早くなっているので、いい意味で、これらの技術的な進化を積極的に取り入れて進化し続けることが、これからの企業においては極めて大事なんだろうと改めて思い直し、自社サービス等でも積極的に採用しなければ思った次第です。
おまけ
今回のセッションではGoogleが推奨するAMPについても言及されました。AMPについては当社も注目をしていて、実際にAMP対応をしているレスポンスを運営するイード社のインタビューも掲載していますが、今回のGDSで一番、私が個人的に注目したのは、AMPとPWAとの融合案です。実際、AMPでは既に<amp-install-serviceworker>というタグが提供されていて、近い将来、これが実現できるとまた違った未来が見えますね。
参考サイト
・SUUMOのPWAの取組
・GDS Keynote資料
・Instant loading資料
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